スーパーGT第6戦鈴鹿では、セーフティカー(SC)の導入タイミングでのピット消化/未消化が明暗を分けたことから、第7戦もてぎの週末は、GT300クラスの各陣営はSCの出動に対してレース前から非常にナーバスになっていた。とりわけ前回、SC導入時に上位を走っていた陣営にとってはトラウマとも言える出来事であり、搬入日の時点から「今回こそは、クリーンなレースを」と願う声がそこかしこで聞かれた。
しかし、迎えた第7戦決勝でも、またもやレース距離の1/3が過ぎたタイミングで、それは起きてしまう。ウォームアップ走行でもトラブルに見舞われピットスタートを選択していたマッハ5G GTNET MC86 マッハ車検が、V字コーナー進入右側のグリーンにマシンを止めたのだ。
GTアソシエイションの服部尚貴レースダイレクターは、SC導入に至った経緯を次のように説明する。
「まず、車両が停止していた場所が、S字から立ち上がるマシンが向かっていく方向でしたので、そのまま放置するわけにはいきませんでした」
「最初はFRO(ファースト・レスキュー・オペレーション)車両で引っ張ることを検討しましたが、ドライバーはマシンから降りていて、ミッショントラブルという情報も入ってきていた。さらにFROで引っ張るとなると、回収可能な場所までかなり長い距離を牽引しなければならないこともあり、キャタ系(キャタピラのついた牽引作業車)を入れざるを得ないという判断になりました」
服部氏によれば、キャタ系の作業車両が介入する際には、レースを止める(非競技化する)必要があるとのこと。あの位置にマシンが停止してしまった以上、現行の枠組みのなかで安全を確保するためには、SC導入は致し方なかったと言える。
このとき、停止したマッハ5G GTNET MC86 マッハ車検を見てピットインを決断した陣営がいた。「前回、SCでレースを落としていたので、戦略そのものを変えなくちゃいけないと思っていて、ウインドウが開いた瞬間に入れようと思っていました」と語るのは、優勝したリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rの米林慎一エンジニアだ。
序盤、7番グリッドから4番手へとポジションアップしていたリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rだったが、ハイペースで飛ばすトップの3台にはついていくことができず、じりじりと離されて行った。18周目には、トップとの差は23秒にまで拡大。ポディウムフィニッシュは厳しい状況となっていた。
後半のタイヤのことを考えればもう少し前半スティントを伸ばしたかったというが、「クルマ(マッハ5G GTNET MC86 マッハ車検)が止まっていたので、もう入れちゃおう」(米林エンジニア)と、チームは判断。21周目の終わりに藤波清斗からジョアオ・パオロ・デ・オリベイラにドライバーチェンジし、4輪交換を済ませてコースに送り出すと案の定SCが導入され、実質2番手にジャンプアップを果たした。作戦成功である。
「もう、争っているのが実質(自分たちを含む)3台しかいなくなって上位は確定的だったので、JPにはすぐに『タイヤをセーブしろ』と伝えました」(米林エンジニア)。
そのオリベイラがグッドスマイル 初音ミク AMGの谷口信輝を90度〜1コーナーにかけてのバトルで抜き去ると、ゴールまでタイヤをうまく労って、今季2勝目を遂げた。
一方、リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rの前周となる20周目にピット作業を行ない、タイヤ無交換でコースに復帰していたのがランキングリーダーのLEON PYRAMID AMGだ。SC導入直前のピット作業により、大きなゲインを得るかと思われた。
■残り2周で表彰台を失った埼玉トヨペットGB GR Supra GT
だが、ピットイン直前となる19周回完了時点で、クラストップを走るSUBARU BRZ R&D SPORTから59秒1の遅れとなる15番手に位置していたLEON PYRAMID AMGは、ピットアウトするとラップダウンに陥っており、そこにSCが導入されたため万事休す。
「SCが出ると分かっていたら、ピットに入れてはいけなかった。でもそれは結果論ですから……」と黒澤治樹監督。
ランキングトップとしてもっとも重いウエイトハンデ=77kgで挑んだ予選で下位に沈み、第1スティントでも順位を上げられなかったことが響いた形でもある。
もてぎとの相性が良いとされるLEON PYRAMID AMGだが、過去に勝利を挙げたもてぎは「コース上では1台も抜いていない」(黒澤監督)という。予選後に蒲生尚弥も「いつもそうなんですが、単独で走れば速いんですけど、混戦になるとバトルにあまり強くないので、その辺が難しいところ」と決勝に向けた展望を語っていたが、後方スタートの今回はまさにその性格が露呈した形となり、得意の無交換作戦に至る前の段階で勝負権を失ってしまった。
全車がピットを終えた段階で、SC後のピット作業となったグループのなかでのトップは、タイヤ無交換作戦を敢行した埼玉トヨペットGB GR Supra GT。ここもてぎで点差を詰め、開幕戦で勝利している富士につなげたいところだった。
とはいえ予選では18番手に沈んでおり、「加速性能は良くないので、なかなか厳しいかなと。8〜10位あたりでポイント取れればいいな、くらいの感じでした」と近藤收功エンジニアは戦前の心境を振り返る。
SC導入前の時点では、SUBARU BRZ R&D SPORTと同じく燃費と燃料タンク容量の面からウインドウが開いておらず、そもそもピットに入るという選択肢はなかった。
SC明けの28周目にピットインすると、タイヤ無交換で川合孝汰から吉田広樹へとドライバーチェンジ。同時にピットに入ったGAINER TANAX GT-RやTANAX ITOCHU ENEX with IMPUL GT-Rらを逆転し、4番手へと躍進する。
3番手にポジションを上げた終盤は、さすがに無交換ということでタイヤが厳しいかと思われたが、背後でSUBARU BRZ R&D SPORTとGAINER TANAX GT-Rのバトルが勃発して2台のペースが落ちたことに助けられた。その後は、スティント後半になっても好ペースを維持して追い上げてきたRUNUP RIVAUX GT-Rからチャージをかけられる立場となる。
それでも単独で走ることができれば「3位は見えていた」と近藤エンジニア。だが残り2周となったところで周回遅れのマシンに行く手を阻まれ、RUNUP RIVAUX GT-Rの急接近を許してしまう。
「GT-Rの加速がよく、もうクルマというよりはエンジン性能が違いすぎて……」と無念の表彰台圏外へ。貴重な3ポイントがその手からこぼれ落ちてしまった陣営は、件の周回遅れのチームがレース後に謝罪に訪れた際も「感情的になってしまった」ほどに、悔しい失点となった。
ドライバーズポイントランキングでは、今回優勝のリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rが56ポイントでトップ。無得点に終わったLEON PYRAMID AMGは51ポイントの2位に後退し、接触によるペナルティを受けながらも9位2ポイントを獲得したGAINER TANAX GT-Rが43ポイントで3位につけている。
そして埼玉トヨペットGB GR Supra GT、SUBARU BRZ R&D SPORT、ARTA NSX GT3(大湯都史樹)の3台が、トップから15点差の41ポイントで並んだ。数字上はグッドスマイル 初音ミク AMG(36ポイント)にも可能性は残るものの、実質上位6台がタイトルの権利を残していると言っていいだろう。
ランキングトップのリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは今季一度富士を制してはいるが、寒い時期のポテンシャルは未知数な部分もある。また、新たな“タマ”を最終戦に投入することを検討しているチームもあるようだ。GT500クラスほどの僅差とはなっていないものの、GT300ではよりダイナミックに勢力図が変動する可能性がある。最終戦では見どころの多いタイトル争いが展開されそうだ。
from SC導入の理由と、上位勢のターニングポイント。ラスト2周でこぼれ落ちた“3点”/第7戦GT300決勝分析
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