スーパーGT GT500クラスではドライバーの腕やチーム力、そしてマシンのパフォーマンスが競われているが、その過酷な戦いを支えるのはエンジンやタイヤだけではない。あまり外観からではパッと見で分かりづらい、各所の重要なパーツも、さまざまなサプライヤーが競って開発を行い、スーパーGTのパフォーマンスを支えている。今回はそのなかからホイール、ハーネス(シートベルト)、ワイパーの3種類のシェアを見てみよう。
近年のレースにおいて、マルチメイクによるタイヤ戦争が行われているカテゴリーは数少ない。世界中を見渡しても、タイヤについてはワンメイクとなっているレースがほとんどだ。そのなかでスーパーGTには複数のメーカーが参戦してタイヤコンペティションを繰り広げているが、じつはクルマとタイヤのパフォーマンスを活かす大きな要素としてホイールの存在も忘れてはならない。
タイヤがレースの結果に影響を与えることも多く、常にその存在は注目されてきた。一方でホイールが取り上げられる機会は少ない。街中を走るクルマではデザイン性が優先されがちだが、レースの世界では軽量、高剛性、放熱性などの機能が求められる。また、数値化しづらい「ドライバーのフィーリング」もホイールによって異なる。タイヤほどではないにせよ、勝敗に関わる奥深いパーツと言える。それゆえに、共通パーツ化が進むスーパーGT GT500クラスの世界では、ライバルに差をつけるための“貴重な開発領域”としてホイールウォーズは密かに注目されている。
現在のGT500全15台のシェアを見てみるとまんべんなく分かれている印象だ。このなかで注目すべきは、ミシュランタイヤを履くCRAFTSPORTS MOTUL GT-RとMOTUL AUTECH GT-Rが今季からRAYSに変更したことであろう。このふたチームは2016年までRAYSを使用していたが、2017年から2019年まではBBSにスイッチし、今季、再びRAYSを使用している。
ホイールが変わればそれまでに培ってきたデータはすべてとは言わないまでも、ある程度リセットされてしまう。おそらく、2017年にスイッチした際もそのリスクも理解したうえでBBSに変更していたはずだ。今季、再びRAYSを履くと選択したことにもそれなりの理由があるはずで、今年のミシュランタイヤにRAYSのパフォーマンスがマッチしていたということなのかもしれない。ただ、ホイールに関してはマシンの戦闘力としてだけではなく、メーカーとの付き合いやスポンサーシップという要素も見逃せなく、オイルメーカーと同様に各チーム、各メーカーによって選択理由は異なるため、GT500のホイールはなかなかに奥が深いパーツでもある。
次はハーネスのシェアを見てみよう。乗用車でも安全のためにシートベルトの装着が義務付けられているが、これはモータースポーツの世界でも変わらない。このシェアを調べるとスーパーGT GT500クラスでは3メーカーに分かれていることが分かった。一番多いのは長年に渡り、自動車競技および航空ハーネス産業において地位を確立しているSCHROTH(シュロス)。じつに50%を超える装着率だった。その次に多かったのは、イタリアの老舗ブランドで、ハーネス界のド定番であるSabelt(サベルト)だ。
取材をするなかで多く聞かれたのは「ハーネスはGT500車両開発時から採用されている“純正的な扱いのブランド”をそのまま使っている」というチームがほとんどだった。しかし、なかには「重量を比較して、ほんの少しだけど軽かったから」という理由で別ブランドのハーネスを選択しているチームもある。決して大きな数字ではないものの、そうしたグラム単位の軽量化にこだわる姿勢を知ると、あらためてスーパーGT GT500クラスにおける戦いのシビアさがうかがえる。
最後はワイパーだ。これは現地で編集部員が調べたところ、全チームがボッシュ製のものを使用していることが判明した。もちろんレースごとに変更している可能性もあり、また、アームの一部を別メーカーにしているチームもあったが、ブレード部は全チームがボッシュ製だった。シェア100%の理由にはワイパーモーターがボッシュ製の共通パーツであることが関係しているだろう。ここでワイパーに関する豆知識をひとつお伝えしておきたい。
GT500クラス車両のワイパーは2014年から全車、フロントガラスの中央に垂直にセットされるようになった。以前は乗用車のように横になっていたり2本だった時代もあったが、ワイパーモーターの共通化や空力に多少なりとも影響があるようで、現在の形に収まっているという。ちなみに、あのワイパーには電流が流れており、走行時でも中央で止まっている状態を保持できるのだそうだ。
近年のスーパーGT GT500クラスではモノコックを筆頭に、サスペンションまわりの細かなパーツまで、多くの領域で共通化が進んでいる。しかし、細かい部分に目を向けてみるとまだマルチメイクのコンペティションがあるのも事実だ。今年はコロナ禍による無観客開催、そしてパドック入場制限などでなかなか2020年車両を間近で見る機会が厳しい状況だが、以上のシェア率を参考に、スーパーGTの“パーツ戦争”が存在していることを意識して見てもらえるよう、実物のマシンに近づける機会がこれから増えることを願いたい。
from タイヤだけではないGT500クラスの“供給パーツ戦争”【全15台サプライヤー調査】
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