11月7、8日にツインリンクもてぎで行われるスーパーGT第7戦。変則スケジュールで行われる2020年シーズンもいよいよラスト2戦となり、タイトル争いも佳境に入る。しかし、スーパーGT GT300クラスに参戦しており、現在ランキング3位につけているARTAはチームを引っ張るベテラン、高木真一が負傷し参戦できなくなってしまったために、急遽代役として松下信治を起用することとなった。
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松下は今シーズンFIA F2選手権に参戦していたが、9月22日に突然離脱を発表。日本に帰国し、2週間の隔離生活を過ごしたのち、最近までスポンサーへの挨拶回りを行なっていた。そんな松下に連絡が来たのは11月3日。高木がスーパー耐久第3戦岡山で負傷した二日後にARTAのプロジェクトリーダーで総監督も務める鈴木亜久里氏から一本の電話がかかってきた。
「今週末、ヒマー?」
GT300クラスのタイトルがかかっているこの緊急事態に、亜久里氏が白羽の矢を立てたのが松下だった。亜久里氏はHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリームー・プロジェクト)のアドバイザーも務めており、松下の成長と活躍を長きに渡って見てきていた。日本に帰国して約1カ月経っていた松下の顔が浮かんだのだろう。
「亜久里さんから電話がかかってきて『ヒマか?』と聞かれたので、『ヒマです』と答えました(笑)。僕は帰国してから特にレースに参戦する予定もなかったので、乗れるのはありがたいですと亜久里さんに伝えて、今回の参戦が決まりました」
電話がかかってきた翌日にはシート合わせのためにファクトリーにも顔を出した。ただ、あまりにも急な話だったために、レーシングスーツは背格好が似ていると言う高木のスーツを名前の部分だけ修正して着用。
ヘルメットもスーパーGT用のものを用意する時間はなく、F2で使用していたフォーミュラ仕様のものを、サーキットに持参している。ヘルメットのダクトをどうするのかという問題やスイッチ類の操作など分からないことが多いようで、走行直前まで慌しく過ごすことになりそうだ。
そんな松下はカートから四輪にステップアップした2011年以降はフォーミュラ一筋でキャリアを積んできたため、ハコ車でのレースは今回が初めてとなる。自らも「ずっと乗ることはないと思っていた」というが、今回、思わぬチャンスが巡ってきた。
「いままでまったく乗ったことがないので、まずは自分のできる仕事をしたいと思っています。チームとしてはタイトル争いもしているし、亜久里さんにも『ポイントは獲って欲しい』と言われているので、クラッシュしないように気をつけてやりたいです」
「あとはレース中、GT500が後ろから来たときに先に行かせると言う経験がないので、そこはちょっと不安かな。ドライビングもまだどう走ったらいいか分からない。まぁ乗ってみて、ですね。なんとかなると思うけど、僕には今回、仁嶺っていう先生がいるので大丈夫かな(笑)」
同じARTAでGT500クラスを戦う福住仁嶺とはヨーロッパ時代、ともに切磋琢磨してきた仲だ。さらに、2019年にARTA NSX GT3のマシンで高木とともにチャンピオンを獲得した福住のアドバイスは松下にとって、とても参考になるようだ。
あまり緊張する様子も見せず、「あくまで高木さんのピンチヒッターで、プレッシャーはない」と言い切る松下だが、今回の参戦は大きなアピールチャンスだ。特に今後のことを考えれば、国内のカテゴリーに参戦するためのきっかけとなる。
「今回乗るからといって、来年乗るというわけではないです。あくまで代役なので、務まるように頑張ります。来年に向けてはこれからですね。僕はレーシングドライバーなので、プロとしてやるなら一番いいのはGT500とスーパーフォーミュラだと思っている。いいチャンスでもあると思うので、しっかりやりたいですね」
松下は明日、7日の公式練習でルーキーテストを兼ね、晴れて午後の予選からスーパーGTデビューを果たす。国内のレースは2018年のスーパーフォーミュラ以来となるが、これまで世界を舞台にフォーミュラ一筋で戦ってきた松下が、初めてのハコ車のレースでどんなパフォーマンスを見せるのか。
from 鈴木亜久里監督からかかってきた一本の電話。急きょ初めてのハコ車レースに挑むARTA松下信治
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