消えた今季初勝利。SUBARU BRZ R&D SPORTがSC前にピットインできなかった事情/第6戦鈴鹿GT300

 トップをキープしたまま20周を終え、2コーナーを立ち上がったとき、山内英輝の目にS字入口で上がる砂煙が見えた。埼玉トヨペットGB GR Supra GTがスポンジバリアに埋まっている。

 きっとセーフティカー(SC)が出るに違いない。ときを同じくして無線からは「この周にピットに入れ!」とエンジニアの声。だが、まだ山内はコース前半区間にいた。もどかしい時間が過ぎる。

 直後、案の定SCが導入され、ピット入口はクローズに。すでに半数以上のマシンがピットを終えていた。まさに最悪のタイミング。ここまですべてを順調に運んでいたSUBARU BRZ R&D SPORTにとって、2年ぶりの勝利が泡と消えた瞬間だった。

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 予選でクラス2番手を獲得したSUBARU BRZ R&D SPORTの決勝プランは『リヤ2輪交換』だった。給油に時間がかかる分、4輪ではなく2輪を交換することで7〜8秒を稼ぎ出す考えだ。

 スタートを担当した山内にとっては、無交換となるフロントタイヤを労って走ることが至上命題だった。スタート直後、ポールシッターのK-tunes RC F GT3を簡単には抜けないと見るや、山内はすぐに守りの走りに徹した。幸いK-tunes RC F GT3はほどなくして極端にペースが落ちはじめ、難なくトップに立つことができた。

 背後のADVICS muta MC86に対しては、一度は4秒ほどのマージンを築くがそこからやや詰められてしまう。山内はタイヤが少し苦しくなってきていた。

 2輪交換を前提にしていたため、フロントよりリヤが先につらくなるのは想定どおりだったが、100kgのウエイトハンデを積んでいるせいか予想よりもタレが早い。

 しかしここで山内は焦らず、フロントのスタビライザーを張る方向に調整することで、好バランスを取り戻す。これでADVICS muta MC86の存在は気にならなくなった。

 山内にとって問題だったのは、想定よりも燃費が悪いことだった。20周前後で予定していたピットインを、22〜23周まで伸ばさなくてはならなくなった。20周で入って満タン給油をしても、井口卓人が担当する後半の燃料が足りないのだ。

 背後のADVICS muta MC86は18周目にピットに飛び込んでいる。戦略の定石から考えると、この翌周にピットインすればポジションキープは固い。さらに、いわゆる『SCリスク』も排除できる。しかし上記の理由から、この段階でピットインすることは、SUBARU BRZ R&D SPORTにはできなかった。

 運命のSC導入は21周目走行中。燃料のウインドウはぎりぎり開いていない状態だったが、SCが導入されれば燃費が伸ばせることと、ピットに入らず1周遅れになるリスクを勘案すれば、コースアウト車両が発生した瞬間にピットに飛び込むことには、ためらいはなかった。だが、そのドアは虚しく閉ざされてしまった形だ。SCがなければ「勝てていたと思います」と山内は言う。

2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)
2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)

 一方で、同じ『ウエイト100kg組』では、25番手スタートのLEON PYRAMID AMGが「鈴鹿はSCリスクも高いコースなので、予定どおり早めに入れました」(黒澤治樹監督)とほぼミニマムとなる16周目にピット作業を行なったことで上位に進出。

 さらにはスタートで履いたハードタイヤがマッチせずポイント圏外へと順位を下げていたARTA NSX GT3も、予定よりも10周近く早い19周目にピットインしたことで、結果的にはSCの恩恵を受け貴重なポイントを得た。

 対して、SC導入時点でピット作業を済ませることができていなかったSUBARU BRZ R&D SPORT、GAINER TANAX GT-R、そしてリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rらのランキング上位勢はノーポイントに終わり、明暗がわかれる結果となった。

「チームはノーミスでした。本当に、ただただ悔しい」と唇を噛むSUBARU BRZ R&D SPORTの澤田稔テクニカルコーディネーター。ランキングトップのLEON PYRAMID AMGから17ポイント差で、残り2レースを迎える。

「2連勝するくらいの気持ちで行かないといけませんね」と山内は言う。虚勢ではなく、根拠はしっかりと持っている。

「今年は富士でももてぎでも表彰台に乗っていますし、“あともうちょっと”を詰められれば、その可能性は多いにあると思います」(山内)



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