スーパーGT第5戦を終えた時点でランキングトップだったWAKO’S 4CR GRスープラ、そして2位のKeePer TOM’S GRスープラが、第6戦鈴鹿でこれまでの両者には考えられないミスでノーポイントでレースを終えることになった。タイトルを争うトップ2がゼロポイントで終わったことで、GT500のシリーズ争いは例年以上に僅差の戦いになったが、WAKO’S 4CR GRスープラとKeePer TOM’S GRスープラ、それぞれレース中に何が起きていたのだろうか。
ランキング2位で鈴鹿を迎えた37号車KeePer TOM’S GRスープラは予選11番手スタートながら、決勝では2周目にランキングトップの14号車KeePer TOM’S LC500をかわし、さらに9周目には同じくタイトルを争う17号車KEIHIN NSX-GTをオーバーテイク。9番手に上がり、貴重なポイント獲得が濃厚な状況となった。
しかし、18周目にミニマムの周回数でドライバー交代を行うためにKeePerのニック・キャシディがピットロードに向かった際、先にピットロードに向かっていたRAYBRIG NSX-GTに追突。RAYBRIGはリヤのエアロがつぶれて盛り上がり、KeePerはフロントグリルが破損した状態でピット前に制止した。
その後、2台はコースインを果たすものの37号車にはドライブスルーペナルティが課され、そのペナルティを消化するも結局、リタイア。レース後、KeePer TOM’S GRスープラの山田淳監督に聞いた。
「(ぶつかってしまったのは)ピットロード入口のスピード制限ラインの手前です。100号車には非常に迷惑をかけてしまって、申し訳ないと思っています」と、まずはRAYBRIG NSX-GTに謝罪する山田淳監督。37号車は一度コースに戻ったものの、フロント部の破損は見た目以上に大きかった。
「クルマの壊れ方がひどくて、安全に走るという部分で不安があったのでリタイアするしかありませんでした」と山田淳監督が続ける。
ステアリングを握っていたのは、全日本F3の頃からトムスと山田淳監督と師弟とも言える関係の深いキャシディ。自然と我が子を叱るようにレース後、キャシディに厳しく指導することになったようだ。
「僕はジュニアの育成の頃からずっと見てきているので……。ニックも『本当に俺がいけないんだ』と。『相手が少し手前でブレーキを……』ということを最初は言ってたんですけど、『それが手前だろうが奥だろうが、いずれにしても俺が後ろを走っている立場だからいけないんだ』『俺の責任だ』と十分に反省していました」と山田淳監督が話すようにキャシディも非を認め、チーム内にわだかまりはないようだ。
リタイアしてしまったものの、37号車はランキング2位でチャンピオン争いの有力候補として残り2戦を迎える。
「残り2戦はウエイトハンデが軽くなったり、燃料リストリクターが外れたりします。GRスープラは素性が良いよくできたクルマだと思いますし、37号車のドライバーラインナップも十分なパフォーマンスがあると思います。ここ2年、ランキング2位が続いているので万年2位とならないように、チームとしてもドライバーとしてもきっちりチャンピオンを獲りたいと思っています。反省するところは反省して、調整をするところは調整をして、次戦、残り2戦に向けてしっかりと準備したいと思います」と、山田淳監督は前を向いた。
37号車と同様に、今回の鈴鹿で手痛いミスをしてしまったのがランキングトップのWAKO’S 4CR GRスープラだった。
WAKO’Sは17周目にピットインして大嶋和也から坪井翔に代わり、セーフティカー明けには一時9番手まで順位を上げたがその後順位を下げ、36周目に2度目のピットイン。坪井から大嶋に再びドライバーが乗り代わったが、ここで完全にポイント獲得の芽は潰えた。
レース後、2度のピットインはチーム側のミスによることが判明した。
スーパーGTではひとりのドライバーがレース周回数の3分の2以上の周回を走ってはいけない規定がある。今回の52周レースでは2名の場合、最低ひとりは18周を走らなければいけないが、WAKO’Sは17周目にドライバー交代を行ってしまい、1周足りないことがレース中に判明したのだ。2スティント目を担当した坪井が振り返る。
■「GT500のチームとしてこういうミスをしていはいけない」とチームを叱咤激励するWAKO’S坪井
「もともとミニマム周回数(18周終わり)でピットに入る予定でしたけど、僕も乗り込む準備をしていて何周目だったのかはわかっていなかった。セクター3を走っているときに『今(ピットインに)入るよ!』と聞いて、とっさに動きました」と坪井。
「クルマに乗って、追い上げなきゃいけないなと思ってピットアウトしたら、アウトラップの1周目か2周目のところで『ごめん。もう1回(ピットに)入らないといけない』と(無線で)聞きました。そこまで集中していた糸が切れちゃった感じがして、意気消沈しました」
「でも、レースは最後まで何があるかわからない。集中力を切らしてリタイアしても無駄ですし、走行データを集めないといけないので前のクルマをオーバーテイクしてプッシュしました。もう1回セーフティカーが入ればミスは帳消しになる可能性もあるので、最後まで諦めちゃいけないと思ってプッシュしつづけて、クルマのフィードバックをしっかり伝えました」と、レース後に語る坪井。
昨年チャンピオンに輝いたWAKO’Sだが、今年はチーム体制が一新しており、運営面、そしてメカニックを始めとしたスタッフ構成は昨年とは大きく異なる。エントラント名もROOKIE Racingとして実質は1年目のチームでもある。
GT500参戦2年目ながら今年、目覚ましいパフォーマンスを見せる坪井はチームを代表するかのように、そして愛を込めて、厳しい言葉でチームを叱咤激励する。
「本当に情けないミス。勝手にとっちらかってしまった感じですね。しょうがないで片づけていい問題ではないくらいのしょうもないミスなので、チーム全体でもう一度意識を改めないといけない。ここまでせっかくいい流れで来ているのに残り2戦、こういう凡ミスでレースを失ってしまうのはすごくもったいない。今回、新しいチームでのボロが出てしまったと感じています。GT500のチームでこういうミスはしてはいいけない」と坪井。
それでも、第6戦を終えてランキングトップ5がわずか2ポイント差に凝縮する超接戦のなか、1ポイント差でKeePer TOM’S GRスープラはトップを守ることができた。
「これが優勝争いをしている時のミスでなかったというのが本当に幸いでした。チャンピオンを争っていた37号車もノーポイントで、ウエイトハンデが軽いチームが勝ってくれたので、そこだけは良かったなとは思います。残り2戦、前回のもてぎの結果もよかったですし富士は毎回絶好調なので一度、意識改革をしてリセットして残り2戦に臨みたいです」と、最後はポジティブシンキングで締めくくった坪井。
今回のMOTUL AUTECH GT-Rのテール・トゥ・ウインのように、レースはチェッカーを受けるまで何が起こるかわからず、トラブルやアクシデント、そしてミスはどんな時でも起こり得る。
特にスーパーGTは自動車メーカーにタイヤメーカー、クラス違いの混走とさまざまな要素が複雑に絡みあい、トラブルやアクシデント、想定外の出来事は日常茶飯事ともいえる難しいカテゴリー。起きてしまったミスをこの先どのように活かし、そして克服して乗り越えていくのかが今年のGT500クラスのタイトル争いの鍵になりそうだ。
from チャンピオンを争うGRスープラ勢のWAKO’SとKeePer。あと味悪い手痛いミス【スーパーGT第6戦鈴鹿GT500決勝】
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