DENSO KOBELCO SARD GRスープラの中山雄一は、ハイペースで追いすがるKeePer TOM’S GRスープラの平川亮を振り切り、トップでフィニッシュする目処をつけていた。それまではタイヤや燃費のセーブに集中していたが、張り詰めていた気持ちを切り替え、ドライビングを楽しみながら最後の2周を走ろうと思っていたという。
その矢先、「No Fuel」の警告が表示され、それどころではなくなってしまった。とはいえ、残量については実際のガス欠に至るよりも早めに表示されることになっている。中山は気持ちを落ち着かせ、フィニッシュを目指していた。だが、最終ラップの最終コーナーで、とうとうエンジンがブスブスとガス欠症状を示し始めてしまった。
もはやGT300をかわす余力もなくなっていたが、なんとかコントロールラインを先頭で切った。まさに薄氷の勝利。ヘイキ・コバライネン/中山組にとっては、形勢大逆転での優勝でもあった。
GRスープラ勢は開幕から好調だった。そのなかにあって、TGR TEAM SARDは苦戦が続いていた。中山は第4戦もてぎでのレース前、「ここでなんとかしないと、チャンピオンの可能性はない」とチームから言われていたが、決勝は不本意な9位。落胆を隠せなかった。
TGR TEAM SARDは今季、チーム体制を一新した。ただでさえ戦闘態勢の再構築には時間がかかる。そこに新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけた。コバライネンが来日できず、開幕戦、第2戦の欠場を強いられた。
コンビとして2年目となり、ふたりの連携の面では不安はないが、出足をくじかれた形だ。だが、脇阪寿一新監督に率いられたチームは着々と実力を積み重ねてきていた。
「今季はチーム体制がガラッと変わり、意思疎通からのスタートでした。でも、寿一さんがみんなの頑張るべき方向を示してくれて、チーム全体で課題を共有することができたんです。課題を共有するということは自分のダメな部分をさらけ出すことでもあるので、すごく恥ずかしいことでもあります」
「でも、そういうところも寿一さんがしっかりフォローしてくれて、自分をさらけ出した。その結果、みんながどんどんレベルアップして、優勝できるだけの実力を短い時間で身につけることができたと思います」
ARTA NSX-GTに乗る野尻智紀と同じタイミングでコースに復帰した中山が、一気に10秒もの間隔を逆転できたのはタイヤの発熱とそれに伴うグリップに差があったからだけではない。レース直後、中山はピット戦略とタイヤ交換作業はトヨタのなかで一番と胸を張った。それだけの自信を持てるほどの実力がTGR TEAM SARDについてきていたからだったのだ。
「今回の優勝で、トップと8ポイント差になった。まだまだチャンピオンを狙えるところに来ることができたので、チーム全員のモチベーションアップにつながると思います。残り3戦が楽しみになりました」
TGR TEAM SARDがGT500シリーズタイトルを最後に獲ったのは2016年。そこからいったんはタイトル戦線から離れていたが、これで上昇に転じ、名門完全復活の下地が整ったようだ。
from 名門完全復活の下地が整った第5戦富士。“優勝請負人”脇阪寿一監督の存在がチームを変えた
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