国本雄資は、ピットロードに入ってきてからもまだ迷っていた。幸い今回、トヨタ勢のピットボックスは出口寄り。考える時間はある。ウエットタイヤに交換するべきか、このままスリックタイヤで粘るべきか――。
WedsSport ADVAN GR Supraは、ドライコンディションの公式練習はトップタイム、予選Q1でも相方のGT500ルーキー・宮田莉朋がトップ通過を果たし、“Q2への切符”というこれ以上ない誕生日プレゼントを国本に手渡してくれた。
Q1も時折霧雨が混じる難しいコンディションとなったが、好タイムを出した宮田は「ドライだった」と言う。「じゃあ、ちょっとくらい降っていたとしても、僕もドライの感じで行こう!」。国本はそう心に決め、予選Q2のセッションにスリックタイヤを履いて飛び出していった。
「ちょっと雨が多いな」
アウトラップの4コーナーを立ち上がったところで国本の自信は不安に転じた。ヘアピンを回っても全然温まる気配を見せないタイヤに、国本は決断を迫られていた。「ウエットに交換しようか」とピットに問いかける。
だが、これまでの経験上、こういったコンディションにおけるウエットでの劣勢は明らかだった。タイヤを換えてしまったらポールポジションの権利はないだろう。せっかく巡ってきたチャンス、なんとかスリックで勝負できないものか……。
ピット入口までに結論は出せず、ピットロードに入ってからも国本は「このままピットをスルーしてコースに戻った方がいいんじゃないか」とも考えていた。だが、依然雨はやや強く降り続いている。国本とチームは、断腸の思いでウエットタイヤへの交換を決断した。
皮肉なことにウエットタイヤへの交換直後から、雨は弱まっていった。「あの路面では(ウエットタイヤでの)速さがないので、スリックで行ってもよかったかな」。Q2最後尾の8番手でセッションを終え冷静になった国本には、そんな思いもよぎっていた。
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新型コロナウイルスの影響でシーズンが短縮され、3サーキットのみで構成されるカレンダーが発表されたときから、ウェッズ陣営は第4戦もてぎ、そして続く第5戦富士を、“狙えるラウンド”に定めていた。
「もてぎは鈴鹿とかに比べて、負荷が少ないコース。そういうところでは、ヨコハマはパフォーマンスがある」と国本。事実、昨年の最終戦ではノーウエイトのなか、7位に食い込んでいる。今年は開催がなくなってしまったタイのチャン・インターナショナル・サーキットと並び、ウェッズが得意とするコースだ。
さらに今季は車両がGRスープラに改められた。開幕戦では上位独占に加担できなかったウェッズ陣営だが、“スープラ効果”は確実に現れているという。
「富士の2戦で、去年よりもロングランのペースが良かった。BS(ブリヂストン)とも遜色ないペースで走れて、去年と比べたら全然よくなっている。もちろんヨコハマのタイヤも進化していますが、GRスープラの進化がすごく大きいと感じています」(国本)。
坂東正敬監督はそのGRスープラの良さを、「引き出しが多い」と表現する。
■「コンマ2、3秒縮められる余力はあった」と宮田莉朋
「たとえば僕らが37(KeePer TOM’S GR Supra)のセットアップにしてタイヤをポンと付けても、速くはならないわけです。スープラに対してどうこう、というよりは、“タイヤはコレですよ”という状況に対して、スープラにはいっぱい引き出しがある」
「どの引き出しを開けるのか。つまり、タイヤに対してセットチェンジしていった方がいい。今回はガラッとセットを変えてきています」
タイヤの特性上、もてぎでは高負荷となる130R〜S字は苦手な部分。セットアップではそれらの高速コーナーの挙動と、コーナー出口でのトラクションが背反する要素だというが、今回はそこがうまくまとめられているようだ。
加えて、今回Q1でトップタイムを奪ったルーキー宮田も頼もしい存在である。
今回の公式練習では走り始めからセットアップを担当し、公式練習最後に設けられているGT500専有走行時間帯に入る前の時点、つまり混走の時間帯で、その時点での全体トップタイムを宮田がマークしているのだ。
「(混走時間帯から)まわりのタイムがあまり出ていない印象で、『もしかしたらこれ、調子いいのかな?』と思いました」という宮田は、予選Q1を「ちょっと雨が降っているなかだったので、攻め切れていないコーナーもありました。まだコンマ2、3秒縮められる余力はあったと思います」と平然と振り返る。
速さを見せたもてぎの土曜日。国本も坂東監督も、「最後の2周は雨量も減ってきていたし、あのままスリックで走り続けていれば……」とQ2の不運と判断を悔しがる。残念ながら結果は伴わなかったが、ドライでの速さは収穫となったことだろう。
決勝では8番手から追い上げを狙うことになる。抜きにくいツインリンクもてぎ、いくら周囲とのウエイト差があるとはいえ、上位進出は簡単ではない。
「難しいですよね。もてぎだから、結構なリスクで抜きにいかないといけない。ただGT300がいるので、そこの隙間を上手く使って。あとはウエイトが軽くて立ち上がり加速がいいので、そこにチャンスが生まれればいいなと思っています」(国本)。
ウェッズといえば、ピット作業の速さにも定評がある。スタートからドライコンディションが続けば、ピットを終えた後半スティントには表彰台圏内に進出……という可能性は充分にあるだろう。
from ドライならPPも狙えたウェッズ「スープラの“引き出し”はたくさんある」/第4戦GT500土曜分析
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