「タイヤの“崖”は見え始めていた。でも、そういう持つか持たないかという勝負をしていかないと上にはいけない」
2号車シンティアム・アップル・ロータスの加藤寛規は、自分のスティントについてそう語った。
かつてはジェントルマンドライバーが多く参戦していたGT300クラス。しかし、今日では多くのチームが前途有望な若手やプロ同士のコンビを起用。さらにタイヤ戦争も激化の一途を辿り、コンペティションレベルはかつてないほどに高まっている。
そんななか、2号車はオーナーでありながら自らステアリングを握っていた高橋一穂が昨年限りで一線を退き、今季はGT500/300両クラス合わせて4度のタイトル獲得経験を持つ柳田真孝を起用。タイトルへの挑戦を目論む。
2号車は開幕戦でも公式練習から速さを見せ、予選では3番グリッドを獲得。しかし、決勝ではホイールナットが緩むトラブルに見舞われノーポイントに終わっていた。
そして「予選を獲りにいった」という今回、柳田真孝がQ1で唯一1分36秒台をマークしB組トップで通過。加藤もソフトを履いてアタックに臨んだが、結果は3番手にとどまった。
気落ちして迎えた決勝では、スタートを担当した加藤が3周目のGRスープラコーナーの立ち上がりで61号車SUBARU BRZ R&D SPORTの先行を許す展開。
8周目の1コーナーで順位を挽回する試みも失敗に終わる。それでも加藤が腐ることはなかった。9周目に61号車とともにトップの6号車ADVICS muta 86MCをパス。
先行する61号車のほうがインフィールドは速いが、ストレートでは2号車に分がある。背後にピッタリと食いつきながら「最大でも25周を想定していた」(渡邊信太郎エンジニア)という寿命の短いタイヤをギリギリまでマネジメント。26周目の終わりにピットへ向かった61号車に対し、2号車は30周目の終わりにピットイン。結果、オーバーカットに成功する。
そして実質トップでバトンを受け取った柳田は、後方とのギャップ、そして加藤と同じソフトタイヤを完璧に支配。
「こちらはストレート重視のセッティング。インフィールドだけ抑えて、抜かせない自信はあった」というが、もし加藤が1、2周早くピットに戻ってきていたら「プッシュしなきゃいけなかったと思う」と柳田。
デビューから丸5年。ようやくつかんだロータス・エヴォーラMCの初勝利は、ベテランの技と精神力で勝ち獲られたものであった。
富士で勝利したことで、次戦では60kgものウエイトハンデを背負うことになる。車重が軽く、パワーの少ないマザーシャシーに限らず、60kgも重くなればクルマは別物になる。それでも、渡邊エンジニアは前向きに語る。
「じつはすでに60kg以上でのバランスは確認してあります。鈴鹿はボトムスピードの高いコースなので、重くてもスイスイと走れる。当然、重りの分遅くはなるけど、バランスのいいクルマ、それに合ったタイヤを持ち込めれば、優勝は難しくてもポイント圏外に押し出されることはないと思います」
エヴォーラMCにとって鈴鹿は相性のいいコース。その一方で、加減速を繰り返すもてぎはウエイトの影響が富士や鈴鹿と比べて強く出るコースであるという。今回の富士で、今年の2号車のパッケージに勝てる力があることが明らかになった。
タイトルに挑戦するには、重くなってもコンスタントにポイントを稼いでいく力が求められる。2号車の真価は次の鈴鹿、そして9月のもてぎで試されることになりそうだ。
from 鈴鹿でも真価を発揮するか。富士で明らかになったロータス・エヴォーラMCのパッケージ力
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