ニッサン陣営内、富士で見えたわずかな光と解決すべき課題「混戦の中での再加速の動力性能」

 以前、スーパーGTに初めて出場したGT300ドライバーが、レース中のGT500のマシンに対して「殺す光線が出ている」と表現したことがある。バチバチにやり合いながら追い抜いて行く様に、殺気を感じたというわけだ。

 また、GT500ドライバーのなかにも「スタート担当はやりたくない」と言う者もいる。「殺す光線」を出している者同士が、レース中もっとも接近する瞬間がスタート直後であり、何かが起こりそうな気がするからである。そんな雰囲気に飲み込まれるようでは、この世界ではやっていけない。

 今季GT500ルーキーの平峰一貴は、開幕戦の決勝は後半担当だった。しかし、オープニングラップでアクシデントに見舞われ、自身は走る機会を得られなかった。

 今回はスタートを担当し、無事“デビューレース”を走り切ることができた。GT500のレースはどのように映ったのだろうか。

「スタートはめちゃくちゃおもろかったです。次は予選でもう少し前に行って、みんなと少し当たってもいいから戦いたい」

 淡々と、でも目をギラつかせながらそう語る。レーシングドライバーには二種類のタイプがいる。「単独でとにかく速く走ることが好き」なタイプと、「相手とバトルをすることが好き」なタイプ。平峰には後者の「バトル上等」な性質が見え隠れする。

 昨年までGT300で相棒だったサッシャ・フェネストラズはトムスに移籍し、今季はライバルとして戦う。

「そりゃ意識しますよ。予選のときあいつが前を走っていて、『後ろから見るとこんな感じなんや』って、思いながら走っていました。決勝も(フェネストラズとのバトルは)楽しかった。最後は抜かれはしたけど、いいバトルができたかなと思いました」

 レース後の周囲の平峰に対する評価は高く、インパルの大駅俊臣エンジニアも「よくがんばった。いまの状況ではベスト」と語っていた。

 今回、チームでは平峰に集中してプログラムを組んだことが奏功したようだ。ルーキーである平峰を早く順応させることが、チーム全体の底上げにつながると考えたのである。そのため公式練習では平峰のみニュータイヤを履き、経験のある佐々木大樹は予選まで履かなかったくらいである。

 平峰は、現在の目標を「行き倒すこと」だと言う。つまり限界まで攻め抜いて走る、ということだ。公式練習でたっぷり走り込めた平峰は、予選Q1をニッサン陣営最上位である3番手で帰って来た。

 そのアタックは「行き倒せた」と言う。決勝もフェネストラズに抜かれただけで、4番手で佐々木につなげている。ルーキーの“デビュー戦”としては、充分な働きをしたと言えるだろう。

 今季の新人はイキのいい者が多く、平峰もまたそのなかのひとりとして台頭していきそうだ。

2020年スーパーGT第2戦富士 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正)
2020年スーパーGT第2戦富士 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正)

■GT-Rの劣勢が否めない。課題は混戦での強さ

 そんな平峰を後押しするべきなのはマシンのポテンシャルだが、現在ニッサンGT-Rの劣勢は否めない。決勝中のストレートでは、MOTUL AUTECH GT-Rが右からGRスープラ、左からNSX-GTに抜かれて行くショッキングなシーンも見られた。

 また、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rは、レース後半GRスープラの背後に迫り、スリップには入れるのだが、それでも抜けないというもどかしい場面もあった。

 ニッサン陣営内で現在とくに課題としているのが、決勝中の混戦での再加速の動力性能だという。単独ではライバルに大きく離されることはないが、GT300のマシンが絡むと、ラップタイムの落ち込みが激しく、その点は「改良しなければいけないところがある」(松村基宏総監督)という。

2020年スーパーGT第2戦富士 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)
2020年スーパーGT第2戦富士 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)

 とはいえ、明るい話題がないわけでもない。カルソニック IMPUL GT-Rは、au TOM’S GRスープラに抜かれはしたが、その後大きく離されることはなかった。

 また、後半スティントのペースは、トップ2台には及ばないものの、3位以下のマシンと遜色ないタイムを刻み続けていたのである。さらに、CRAFTSPORTS MOTUL GT-R、カルソニック IMPUL GT-Rの両GT-Rの熟成が進み、全体のポテンシャルアップが見込めることも今後の期待を大きくさせてくれる。

 今季予定されている開催コースは、富士以外では鈴鹿ともてぎという抜きにくいレイアウト。つまり混戦での強さが問われるコースであるが、それをどう戦うか。

 2基目のエンジン投入タイミングは未定とのことだが、その中間加速の性能にすべてのニッサンファンの期待がかかっている。



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