国内最高峰レースの先陣を切って、スーパーGT第1戦富士がいよいよ開幕した。新型コロナの影響で約4カ月遅れの開幕、変則の日曜日のワンデー開催、そして無観客での開催といつもとは違う2020年のスーパーGTシリーズ。練習走行が行われた初日、各陣営の手応え、そして新しく開発されたクラス1規定下での2020年新型車両について聞いた。
2020年のスーパーGT、GT500クラスのまず最初の注目はホンダ、トヨタ、ニッサンの3メーカーがクラス1規定に則した新型車両の出来映えだ。2013年以来となる3メーカー同一駆動方式のマシンで、モノコックやECU(電子制御)、サスペンションなどが共通化され、開発エリアは空力面、ラテラルダクトと呼ばれるボディサイド部下とフロント両端のカナード部の空力、そしてエンジン性能に限られる。
3月に行われた岡山公式テスト、そして6月末にメディアシャットダウンで行われた富士公式テストでのタイムとリザルト、そして下馬評では、クラス1規定に則りミッドシップから今年フロントエンジン・リヤドライブ(FR)化したホンダNSXの速さがライバル陣営から聞こえてきていた。
まずは2020年のFR化されたNSXについて、開発のコンセプトをホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏に聞いた。
「今年のNSXの開発は車体、エンジンの信頼性とドライバビリティを中心に進めました。開発で苦労したのは、フロントにエンジンを納めるスペースが厳しいことです。補機塁を含めて、エンジン、ギヤトレーンをすべて新規で開発しました」と佐伯氏。
車体開発担当の徃西友宏氏が「スペースがなくて、冷却系の開発にも苦労しました。ダクトをどの位置で通すのか、ダクトのスペースの奪い合いのような形になりましたね」と付け加える。
目指した車両特性としては「これまでのNSXのミッドシップのイメージを崩したくなかったですし、ドライバーからもやはりミッドシップのような挙動を求めるニーズが出てくるので、そのような特性を目指しました」と徃西氏。実際、FR化されたNSXはすでにかなりのダウンフォースが出ているようで、コーナリングの速さでアドバンテージがあるようだ。
ホンダとしては新型コロナの影響で開幕が延期された約4カ月の期間、まったく新しいFR車両を開発をしていたホンダとしては時間が延びたことはメリットとなった。エンジン面でも「数か月分に見合った正常進化、性能向上が得られた」と佐伯氏。「これまでは車両の開発を重視して信頼性に振ったエンジンを搭載していましたが、この開幕に向けて重量的にも軽くなったエンジンを投入することができました」と、今季型のNSXの開発に手応えを感じているようだ。
一方、トヨタGRスープラ陣営も、コロナの延期期間は有意義な時間を過ごせた様子。GT500のGRスープラ開発プロジェクトを率いるTRD湯浅和基氏が話す。
「実走ができないだけで、エンジンのベンチテストや風洞テストの開発は止めずに続けていました。いつもなら開幕直前までテストをして、すぐに開幕になだれ込むような形でしたが、今年は時間があったのでいろいろな検証や解明、確認を進めることができました」と湯浅氏。
GRスープラの開発について苦労した点については、「クラス1規定での共通パーツの部品強度などがわからなくて未知な部分があったり、エンジンECUの制御方式の変更があって、これは3社共通して苦労している部分だと思います。そこに加えて、他社さんと違うところでは我々としてはクルマの形が変わっているので、空力の変更、開発が一番大きいですね。空力パーツの立て付けや交換性、表面の強度なども開発要素に入ってきました」と説明する。
■3メーカーの2020年新型車両、コロナ期間で分かれたGT500クラスの開発状況
エンジンは昨年のLC500からの継続開発で、「少ない燃料でいかにパワーを出すかという面では」まだまだ開発余地が残っているという。GRスープラの課題としてはコーナリング中の空力、挙動とドライバビリティとのことで「そこはまだ解決には至っていない」と湯浅氏も認める。車体にレーキ角(前傾姿勢)をつけるなど、まだ試行錯誤が続いているようだ。
ホンダ、トヨタと延期の期間を開発に充てて成果が得られたようだが、ニッサン陣営にとっては厳しい期間になった様子。ニッサン陣営の総監督を務める松村基広氏が話す。
「コロナウイルスの関係で在宅勤務率を7割以上くらいまで上げたので、実際には作業できないという状況が続いた。やらなきゃいけないことは勉強したりはしているけれど、会社にみんなで集まって作業とかできない期間かなり長く続いた。パソコンの中だけでできることは技術者とかはやるけど、検証する手段を持っていない。エンジン開発にしてもまったく回ってないわけではないけれど、ベンチとかも十分にはできないですしね」と、かなりの苦労があったようだ。
6月の富士テストなどでニッサンGT-R陣営には駆動系のトラブルが出てしまったが、「外から見るとプロペラシャフトで苦労してんじゃないかと思われるかもしれませんが、実を言うと原因はわかっていました。ちょっとファンの方にはがっかりさせてしまった感じですが、いろいろなことを試しているなかで対策を入れてない(プロペラシャフト)はトラブルが出るとわかってうえで使っていましたので」と松村氏。
昨年までのGT-Rではエンジン面でのパフォーマンス不足も囁かれていたが、今年はホンダ、トヨタが採用していると言われるプレチャンバー(副燃焼室)方式をニッサンも採用してきたと言われている。パフォーマンスが上がったGT-Rのエンジンの弊害として駆動系に新しい負荷が掛かったのではないかと推測される。
「駆動系のトラブルに関しては燃焼系の関係ではありません。燃焼よりもどちらかというと、違う特性のエンジンを作ってみよう進めたものの跳ね返りです。そういう事象が出ることはわかっていたので、対策についても決まっていて、すべてやって準備してきましたのでもう大丈夫です」と松村氏。開幕前に何度か発生した駆動系トラブルが解決したことはニッサン陣営にとっては大きい。
今年は全8戦中4戦が富士で開催される。昨年まで富士を得意としてるニッサン陣営としては大きなアドバンテージになりそうだが、「今までのクルマなら有利になってたでしょう。クラス1規定で共通部品になった今度の2020年型のマシン特性は、今までの我々のクルマよりはいいですが、タイムだけ見ているとトヨタさんもホンダさんも富士で速い。20年型で進化の度合いが、トヨタさん、ホンダさんは特に富士ではよくなったじゃないかなと思います」と、松村氏は首をタテには振らない。
今年の抱負については「本当に地道にコツコツ、みんなで力を合わせて追いかけるつもりで頑張るということですね。シリーズチャンピオンからちょっと離れていますが、そこは真面目に勉強してきたつもりなので、チーム、ドライバーが遺憾なく実力を発揮してチャンピオン争いに食い込むことができればチャンピオンの可能性があると思っています」と控えめな松村氏。今年はニッサン陣営らしいレース巧者ぶりや、ミシュランタイヤのアドバンテージ、そしてドライバーとチーム力を駆使しての戦いが今年は求められることになりそうだ。
開幕戦土曜日の公式連勝の結果を見る限り、ホンダNSXのブリヂストンタイヤ勢がトップ3を占め、FR-NSXがいきなり好調さをアピールした形となったが、「トヨタ勢はロングラン中心に走行していて、そのロングランのタイムがウチより断然速い。ウチは一発だけなのでまだまだ頑張らないといけない。今日は見た目の順位だけで、厳密には我々は負けています」とホンダ佐伯氏は謙遜するが、NSXがまずは一発の予選が速いのは明らかだ。
果たして、DTMとの歴史的なクラス1規定下での最初の勝利はどのメーカーになるのか。NSXにスープラ、そしてGT-R、7年ぶりにそろった駆動方式、そしてまったくのイーブンウエイトでの純粋な3メーカーの戦いの火蓋がついに日曜日、落とされることになる。
from スーパーGT、3メーカー首脳に聞く新型車両開発。歴史的1年の最初の勝利はどのメーカーに!?
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