スーパーGT坂東代表がインタビューで語るコロナ禍8戦開催の決意。衰退傾向のDTMとの将来ビジョン

 6月4日、スーパーGTをプロモートするGTアソシエイションは、コロナ禍によって延期となっていた2020シリーズ開催日程を発表。それと同時に新型コロナウイルス感染症対策を前提とした「公式イベント開催に向けたロードマップ」を発表した。このなかには数々の感染防止対策が盛り込まれているが、なかでも最も影響の大きい施策が無観客での開催である。

 シリーズ8戦全戦において無観客開催を想定している。日頃からファンがあってのスーパーGTであると表明してきたGTアソシエイションだけに、苦渋の決断だったことは想像に難くない。シリーズ日程、ロードマップ策定に至った経緯と今後の展望についてGTアソシエイション坂東正明代表に聞いた。

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「3月に岡山の公式テストを無観客で開催した後、全国の感染拡大状況に鑑みて開幕戦岡山を延期、外出自粛要請の発出もあり公式テスト富士を急きょ中止した。第2戦富士、第3戦鈴鹿も3月中に延期を決定。4月頭には第4戦タイ、第5戦マレーシアも延期を発表した。こうしたなかで、緊急事態宣言が解除された後に、イベントを開催するための考え方や具体的な対策を模索した」

「まずひとつは、チーム関係者の移動に公共交通機関を使用しないこと。飛行機や電車などを使用した移動では感染の危険性があるので、自家用車で移動できるサーキットに限定して開催することとして、オートポリス、岡山、SUGOでの今季の開催を断念した」

「多くのチームが富士スピードウェイ周辺にガレージを持ち、メカニックもその周辺に住んでいる。今季の開催を富士と鈴鹿、もてぎに限定することで、移動でのリスクを最小限に抑えることができる」

「無観客で開催するとなれば、興行的な部分ではマイナスは大きいものの、スーパーGTはシリーズやチームをご協賛いただいているスポンサーの方々だったり、自動車メーカーやタイヤメーカーの支援があって成り立っており、シリーズを開催して前に進めなければ(経済が)回っていかないという側面もあり、変則的ながら全8戦のレースを開催したいと考えている」

「我々の組織責任と義務でコントロールすべきところをきちんとコントロールして我々のなかからひとりも発症者を出さず、それを積み重ねることによってレースを開催していく。屋外であり、ソーシャルディスタンスを確保するなどすれば観客の入場も問題ないとの見方もあるかもしれないが、お客さんの感染予防対策は、現状ではそれぞれの自己責任となってしまう。我々の管理下に置くことは不可能であり、完全な対策は困難という結論に至った。サーキットで観戦していただけない分、もっと映像でレースを楽しんでもらう方法がないか、方法は検討していく」

「お客さんが入らないことでレースを開催してもサーキットには収入がない。しかし運営には大きなコストが伴い、オフィシャルのスタッフだけでも250名以上の協力が必要となる。我々が負担できる最低限のところで、サーキットから理解が得られ無観客での開催が実現した。これも来シーズン以降、スーパーGTを継続して開催するために必要なことの理解を得られたから実現したものだ。逆に、本年の開催中止を決断していただいたサーキットも同様であり、これが来シーズン以降シリーズを継続するために必要な措置であることを理解していただき協力を得られた」

「8戦をひとりの感染者も出さずに乗り切るには、かなり厳しい管理をして確実にやっていかなければならないだろう。自分たちがやれることをすべてやって、たとえばマスクの着用や手洗いだったり、問診票の提出や検温の実施、チームスタッフの作業導線の規制など確実に実施しながらレースを開催する。PCR検査や抗体検査を我々の責任で実施するのは現状、困難でもあり、だからこそやれる範囲のことはきちんとやらなければならない」

「ひとつひとつ実践しながらいいところ悪いところを検証し、改善しながら進めていく。そのためにも公式テスト富士、第1戦富士、第2戦富士と同じサーキットでの開催とした。同じ場所で同じ方法や進め方で実施することで、確認と反省、見直しを繰り返しながら前に進めていく。鈴鹿やもてぎのオフィシャルスタッフにも富士に来てもらい、情報を共有して第3戦鈴鹿、第4戦もてぎへとつなげていく」

■10月以降の観客導入、レース距離への見解と、DTMとのコラボなどスーパーGTの将来ビジョンについて

「9月のもてぎまでそうやって確実にイベントを開催し、その間に感染拡大が収束するなどして、段階的に実施できることが増えるのであれば10月以降、何をプラスすることができるかを検討していく。そこまでに確実に感染防止対策が実践できていれば、なにかをプラスするとしても、その点に関してだけ感染予防対策を検討すればいい。イチから考え直す必要がない。たとえばレースクイーンを入場させるとなったら、レースクイーン周辺の感染防止策を追加すればいい。ゲストを入場させ、そのためのVIPルームを開設するのであれば、そこだけの対策を考えれば済む」

「もちろん、10月以降お客さんにサーキットにご来場いただき観戦してもらうのが最善ではあるが、その条件を今、我々が示すことはできない。仮に我々がその基準を作ったとしても、環境がどのように変化しているのか分からず、またその環境下、集客が許される状況になっているかは分からないからだ」

「決勝レースの距離は300km以下で長距離レースの開催予定はない。確実にレースを実施することが最優先なので、10月以降もスポーティングレギュレーションの規則で変化をつけてレースを盛り上げるというのは難しいかもしれない。レースに影響を与える変化としては、レースへ持ち込みタイヤのセット数を制限する可能性もある」

「レースに持ち込むマーキングタイヤのセット数を限定して、バックアップ用のタイヤの持ち込みを制限するかもしれない。持ち込み本数を制限すれば、タイヤの組付けが金曜日(搬入日)だけに限定できるので、チームスタッフとタイヤサービススタッフの接触機会を減らすことができる。タイヤサービスのスタッフを2班に分けるなどの方法も検討している。公式テスト富士を実施してみて、改善点を探っていく」

「公式テスト富士の開催が6月27~28日、第1戦富士が7月18~19日。このタイミングではタイヤテストの内容を解析して第1戦用のタイヤの設計にフィードバックするにはリードタイムがない。第2戦にはテストの内容を反映したタイヤが投入できるだろうが、開幕戦については妥協が強いられるかもしれない。GT500はCLASS1規定の下での新しい車両でもあり、公式テスト岡山以降テストができていない。第3戦の鈴鹿に向けては安全性の観点からテストが必要との声がタイヤメーカーから挙がっており、今後タイヤテストの機会を設けることを検討している」

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「できる限りの感染予防策を講じながらシリーズ全8戦を無事開催する」。これが今季の最大のミッションであるとの決意が坂東代表の言葉から伝わってきた。コロナ禍によってイベントが次々延期となり、かつてない状況に見舞われているなか迎える開幕戦だけに、シリーズの展開を占うことは現時点では不可能であり、坂東代表も「読める要素はない」と語る。

 CLASS1規定車両でのテストは3メーカーとも公式テスト岡山以降できておらず、とくにGRスープラを新規導入したトヨタ、FR化して初シーズンを迎えるホンダにとって未知の部分が多い。GT-Rのニッサンはニッサンで、フランスに製造拠点があるミシュランタイヤの供給体制、ロジスティック面での不安もある。

 坂東代表の言葉にあるように公式テストから開幕戦までのリードタイムが少ないことも、タイヤ熟成の観点では不確定要素として加わる。さらにテスト時間の総量としても例年と比較して圧倒的に少なくルーキーにとっては厳しい環境だ。ドライバーへの負荷は高くなるだろう。

 最後にCLASS1導入にあたって中長期ビジョンとして掲げてきた国際交流について、その重要なパートナーDTMがアウディの撤退によって不安定な状況に置かれていることを念頭に、今後に向けてどのように考えているのかを聞いた。

「CLASS1規定による共通パーツの導入でコストダウンを実現して、スーパーGTは新たなマニファクチャラーが安価に新規参加可能なカテゴリーとなった。興味を持ってもらえたら、いつでも歓迎したい。競争があり、エンターテイメント要素もあり、ここまで世界に誇れるカテゴリーを作り上げた自負はある」

「欧州のマニファクチャラーは難しい状況に置かれているのかもしれないが、これからの成長市場はアジアにあり、そこにおけるマーケティングを考えればカテゴリーとしての価値も高い。『来るなら来い』と言いたい(笑)」

「さらに、将来的には環境対策も検討していく。GT500について2022年までは現行規定を維持するが、その先の2023年以降の規定については、ハイブリッド化やアルコール燃料の使用など環境対策を盛り込むことも話し合っていく。ただし、音や匂い、五感を刺激する要素を捨てるつもりはない」



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