1年でボツとなった野心的アイデア。02年型ニッサンGT-Rのラジエター移設大作戦【スーパーGT驚愕メカ大全】

 1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC。現スーパーGT)では、幾多のテクノロジーが投入され、磨かれてきた。ライバルに打ち勝つため、ときには血の滲むような努力で新技術をものにし、またあるときには規定の裏をかきながら、さまざまな工夫を凝らしてきた歴史は、日本のGTレースにおけるひとつの醍醐味でもある。

 そんな創意工夫の数々を、ライター大串信氏の選定により不定期連載という形で振り返っていく。第7回を迎えた今回は、R34型のスカイラインGT-Rがその“代名詞”を捨てて搭載したV6エンジンと、ラジエター移設という大技の成否を振り返る。

連載第1回はこちら
連載第2回はこちら
連載第3回はこちら
連載第4回はこちら
連載第5回はこちら
連載第6回はこちら

*****

 ニッサン陣営は、1994年にJGTCが始まったときから、ベース車両にGT-Rを選んできた。JGTCが始まった段階でニッサンの手元には史上最強のツーリングカーと言われるR32型GT-Rが競技車両の形で残っていた。その資産を有効に活用しようと考えるのは当然だ。当初、ニッサン陣営のよりどころは、ターボ過給直列6気筒エンジン、RB26DETTのパフォーマンスだった。

 だがJGTCでの技術競争が激化すると、前後に長くて重い直列6気筒エンジンは車両全体の運動特性を阻害するという点で逆にハンデになっていった。

 車両規則では市販ラインアップには存在しなくても同じメーカーのエンジンならば換装することができたが、ニッサン陣営は市販車営業上GT-Rの個性を維持せざるをえず、どんどん不利になっていくことを認識しつつも直列6気筒エンジンにこだわり続けた。

 ようやく鋳鉄シリンダーブロックを持つRB26DETTに見切りをつけ、新世代のアルミシリンダーブロックを持つターボ過給V型6気筒「VQ30DETT」へ換装したのは02年シーズン途中のこと。R34型GT-Rが生産中止となり一時的にベース車両が市販されていないという特殊な状況になったことを理由に、念願のV型6気筒エンジンをR34型GT-Rのエンジンルームに押し込んだのだった。

 このとき、開発陣は重い直列6気筒エンジンゆえのフロントヘビーに苦しんできた反動のように、あえて言うならばドサクサ紛れで非常に興味深い大改造をR34 型GT-Rに加えている。

 なんと、それまで車体前端部に置かれていたラジエターを車体後端部、トランク内に移設したのだ。軽くてコンパクトなV型6気筒エンジンに換装するとともに冷却水が回る重量物であるラジエターを車体後端に置いた結果、R34 型GT-Rの前後重量配分は劇的に改善された。

 ただし、ラジエターは位置を変えれば済むというものではない。車体前端に置いておけば走行時に空気がラジエターに当たって冷却が行なわれるが、本来密閉空間であるトランクの中に走行風は流れてこないからだ。だからと言って空気を導くために下手なダクトを設ければ空気抵抗が増大してしまう。

 開発陣はまず、改造範囲が拡大された新しい車両規定を受けてそれまでトランク内に置かれていた燃料タンクをキャビン内へ移設した。これだけでも前後重量配分が改善される大きな改良である。そのうえで、空になったトランクの底面に寝かした状態でラジエターが置かれた。

 冷却風を取り入れるインレットはリヤウインドウ下、トランクリッド上面前端部に開けられ、上方からラジエターを通り抜けて冷却を終えた空気はトランク底面からディフューザー上面へ抜けて後方へ向けて排出するようアウトレットが設けられた。

VQエンジンは第5戦から全3台のGT-Rに搭載された。トランク上にラジエターへのインレットを設置。大改良を施したGT-Rだったが、この年は未勝利に終わる。
VQエンジンは第5戦から全3台のGT-Rに搭載された。トランク上にラジエターへのインレットを設置。大改良を施したGT-Rだったが、この年は未勝利に終わる。

■野心的配置で上がってしまった02年型GT-Rの重心

 しかしトランクリッド上面は通常のグリルに比べて空気の圧力が低いので冷却に充分な空気は流れない。そこで追加されたのが、レーシングカーのラジエターでは用いられることのないファンだった。

 このファンは、エンジンの動力を流用して回したポンプが生み出した油圧で働き、空気を引き込んで排出した。油圧の軸流ファンは量産車で多用される電動ファンに比較して軽量にまとまるという見通しだった。

 しかし結果的に予想より重量が嵩んだうえ、車体後部の高い位置に冷却系コンポーネントが配置されたため前後重量配分は改善されたものの重心が上がってしまうなど弊害も生じた。02年シーズン途中、実験的に実戦投入された野心的アイデアではあったが、当初期待しただけの効果が認められなかったため、R34型GT-R最後のシーズンとなった翌03年の車両のラジエターは通常の位置に戻されてしまった。

 V型6気筒エンジンを搭載したR34型GT-Rという異形も03年いっぱいで実戦を退き、翌年GT500 クラスのベース車両はZ33型フェアレディZに切り替えられたのだった。

リヤオーバーハングに設けられたラジエターコアを覗く。なお翌03年型ではラジエター位置はフロントへと戻ったものの、規定変更を受けてギヤボックスをリヤへと移設しトランスアクスル化。前後重量配分の適正化を再度図った。
リヤオーバーハングに設けられたラジエターコアを覗く。なお翌03年型ではラジエター位置はフロントへと戻ったものの、規定変更を受けてギヤボックスをリヤへと移設しトランスアクスル化。前後重量配分の適正化を再度図った。
開幕前からV6エンジン換装の話は持ち上がっていた。第3戦SUGOでついに投入されたザナヴィニスモGT-Rを、トヨタ陣営のスタッフが興味深そうに見つめる。
開幕前からV6エンジン換装の話は持ち上がっていた。第3戦SUGOでついに投入されたザナヴィニスモGT-Rを、トヨタ陣営のスタッフが興味深そうに見つめる。


from 1年でボツとなった野心的アイデア。02年型ニッサンGT-Rのラジエター移設大作戦【スーパーGT驚愕メカ大全】

コメント