スーパーGTにとって2020年は、転機のシーズンとなる。その最たる変革が、GT500とDTMの車両規則が共通化され、フロントにエンジンを搭載したNSXが誕生したこと。FCY(フルコースイエロー)の導入も、その一例といえる。そして、GT300でも“戦い方が変わる”ほどの大きな変更があった。入賞ポイントに応じて“重り”を積む、ウエイトハンデシステムの見直しだ。
開幕戦と最終戦はノーウエイト、最終戦前のラウンド、近年のカレンダーでいえば第7戦は1ポイント×1kgとなり、第2戦から第6戦は1ポイント×2kgというのが従来のウエイトハンデシステム。それが今シーズンのGT300は、第2戦から第6戦が1ポイント×3kg、第7戦が1ポイント×1.5kgに改められた。
そもそもスーパーGTがウエイトハンデシステムを導入しているのは、1台の車両が勝ちすぎないようにするための措置である。ウエイトによって性能を引き下げ、各車両、各チームのパフォーマンスを接近させることで、どのチームにも勝つ権利が与えられている。
それは結果的に多くのバトルを生み、タイトル争いが白熱し、ファンを楽しませている。この制度が、スーパーGTの成功を支えているひとつの要素と言ってもいい。
ところが、技術の進化やチームの経験による対策によって、ウエイトによるパフォーマンス低下の効果が薄れていった。いまのGT500が、ウエイト50kg以上は燃料リストリクターを絞ってエンジンパフォーマンスを抑えているのも、それが背景にある。
現在のGT300で大半を占めるFIA-GT3は、大排気量エンジンでトルクが太く、重さに対する感度は小さい傾向にある。GT500と同じようにエンジンパフォーマンスを抑制できればいいが、燃料系に手を加えるにはコンピューターによる制御側も変更しなければならない。
BoP(性能調整)によって均衡を保つべく定められた、吸気量をつかさどるエアリストリクター径も同様だが、市販レーシングカーであるGT3においてラウンドごとに制御系を変更するのは不可能といえる。そこでGT300では、“ウエイト増”に行き着いたわけだ。
2018年シーズンのLEON CVSTOS AMG(65号車)、2019年シーズンのARTA NSX GT3(55号車)は、全戦で入賞を続けチャンピオンになった。1ポイント×3kgのウエイトハンデシステムは、それを難しくさせる。
たとえば開幕戦で優勝すれば、次戦でいきなり60kgを積むことになる。毎戦表彰台の顔ぶれが異なることが期待され、この新ルールによってタイトル争いもさらに熾烈を極めるだろう。間違いなく、今シーズンのGT300は面白くなる。しかし、その一方で、事の成り行きを懸念する声もある。
エンジンパワーで勝るGT3に対し、JAF-GTとMC(マザーシャシー)は軽さで勝負してきた。だが、重量が増すと、その最大にして唯一の強みが削がれてしまう。重くなることのデメリットはGT3も同じだが、1馬力が支える重さ、パワーウエイトレシオを考えるとJAF-GTとMCはより厳しい状況に陥る。
なかでもエンジン排気量が2リッターと最小のSUBARU BRZ R&D SPORT(61号車)には、酷な新ルールとなりそうだ。実際、パドックでは「BRZ潰し」という声も挙がっていた。
2016年シーズンはMCがチャンピオンとなったが、2017年シーズン以降はGT3がタイトルを獲得。2019年シーズンに至っては、シリーズランキング上位8台がGT3だった。その構図に、拍車がかからなければいいのだが――。
そしてもうひとつ、「戦い方が変わる」と多くのチーム関係者が口にしていたことも気になる。かつてのスーパーGTでは、6位以下はウエイトを降ろせるシステムを採っていたことがある。
当時は、ウエイトの搭載を嫌ってポジションを譲るというレースが度々起きてしまった。今回の新ルールではウエイトを降ろすことはできないが、どうなるか。それも戦略のひとつであり、より多くのチームに優勝、上位入賞のチャンスが訪れることをファンに喜んでもらえるか。その答えが分かるのは、シーズン終了後だ。
GT300は、ほかにも新たな変化で溢れている。埼玉トヨペット Green Brave(52号車)がJAF-GT規定で製作したGRスープラに、つちやエンジニアリング(25号車)はトヨタ86 MCからポルシェ、X Works(33号車)はニッサンGT-Rからアウディへとマシンをスイッチ。JAF-GTのBRZとプリウス PHVはアップデートし、メルセデス AMGもエボモデルへと進化している。
INGING(6号車)は新チームとして86 MCで参戦。 PACIFIC NAC D’station Vantage GT3(9号車)とSYNTIUM LMcorsa RC F GT3(60号車)はミシュランを履き、タイヤ戦争も加熱しそう。また、柳田真孝、スタディ BMW M6(7号車)がGT300に復帰。体制を大幅に変更したチームもある。
岡山テストでは、柳田が加入したシンティアム・アップル・ロータス(2号車)がトップタイムを刻み、ドライバーもチーム体制も刷新したHitotsuyama Audi R8 LMS(21号車)がそれに続いた。
昨シーズン、ノーポイントに終わったTOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(31号車)も、4番手と好発進。逆に昨年の岡山テストでトップだったK-tunes RC F GT3(96号車)、3番手だったグッドスマイル 初音ミク AMG(4号車)の順位が下がっているが、96号車はタイヤをブリヂストンからダンロップに変更、4号車はエボモデルになったことの影響もあるのだろう。体制を変更した昨シーズン王者の55号車も含め、テストが進めばいつものポジションに上がってくるはずだ。
from スーパーGT:2020年、GT300の戦い方が変わる。新ルール“1ポイント×3kg”の波紋
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