「2020年にレースの現場からTRDが“いなくなる”という噂は本当ですか?」
これは先日のスーパーフォーミュラ鈴鹿テストで、ライバル陣営の関係者から尋ねられた言葉だ。突如もたらされた情報に、auto sport本誌取材陣も思わずたじろいだ。
あわてて取材を進めたものの、トヨタ系チーム関係者はいっさい口を割らない。いったいトヨタ陣営内で何が起きているのだろうか?
レース界にとどまらず、クルマ好きでその名を知らない者はいないトヨタ・レーシング・ディベロップメント──TRD。
かつてはトヨタテクノクラフト(株)が所有するブランドだったが、2018年4月からはモデリスタなどとの統合によって誕生した新会社(株)トヨタカスタマイジング&ディベロップメントの1ブランド(事業)となった。
その名はアメリカやアジアなど世界中に広く、深く浸透している。国内ではカスタマイズパーツの製作、販売にとどまらず、参加型モータースポーツの企画/運営からトップカテゴリーの車両/エンジン開発まで、トヨタのモータースポーツ活動を幅広く支える存在だ。
とくにスーパーGT GT500ではマシン開発という重責を担いつつ最前線で戦う全6台を統括し、スーパーフォーミュラでは全11台が搭載するエンジンの技術サポートも行ない、チームから全幅の信頼が寄せられている。
なぜ、そのTRDがサーキットの現場から「いなくなってしまう」のか? 青ざめる取材陣に対して、ある関係者は「心配しなくても大丈夫です。“中身”はそのままですから」と答えた。聞けば、そのヒントは2020年のGT500活動に隠されていた。
トヨタ陣営は2020年からベース車両を“スープラ”に変更するが、これは正しい表現ではない。厳密には「トヨタ自動車のGAZOO Racing Companyが販売する初めての専売車種『GRスープラ』」が正しい。
WEC世界耐久選手権やWRC世界ラリー選手権、そしてフェルナンド・アロンソの加入によって世界的な注目を集めるダカールラリーも、すでに『TOYOTA GAZOO Racing』(TGR)としての参戦だ。
そのTGRの象徴とも言える車両、GRスープラがベースとなるGT500でも、同様の流れをくむことになるわけだ。したがって、2020年のトヨタ陣営のチーム名は、これまでの“LEXUS TEAM~”から“TGR TEAM~”へと変更されても不思議ではない。
とにかくトヨタのモータースポーツ活動は、国内外を問わず「すべてGRブランドで統一したい」という明確な意思表示として受け取れる。
そうしたときにトヨタのスポーツ/レースを象徴するブランドがふたつ混在していたのでは紛らわしく統一感に欠ける。そのため、伝統ある“TRD看板”が降ろされると考えればたしかにツジツマは合う。
レースファンの立場に立てば、長年慣れ親しんできたTRDの名がサーキットから消えてしまうことに戸惑いや寂しさを覚えるが、違う角度から眺めるとポジティブな部分もある。
まず、実質的なマシン開発はこれまでのTRD開発陣が引き続き行なうため、技術的な心配は無用。最大のポイントはブランド定着に力を入れているGRが、プロモーションツールとしてスーパーGTを認めたことだ。世界選手権を戦うGRが「スーパーGTも重要な活動の一環」ととらえた証しでもあるわけだ。
今後は、このGRの活動が、どれほどの熱量で、いかに永続的に行なわれていくかに注目したい。何はともあれ冒頭の言葉を聞いた直後の冷や汗は、ひとまずおさまった。
from 2020年、レースの現場から“TRD”が消える? スープラ導入にあわせ、国内活動名を“TGR”に統一か
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