ホンダNSXが苦手な富士を圧倒的速度で席巻。これで見納めミッドシップ最終形の答え合わせ

ここ数年の傾向としてホンダNSX-GTは富士スピードウェイを苦手としている印象があったが、今回のスーパーGT×DTM特別交流戦レース2では、レースを席巻する勢いがあった。展開によっては表彰台独占も夢ではなかった。どのような要因によるものなのだろうか? ホンダのNSX-GT開発責任者の佐伯昌浩氏に聞いた。

「目立ってはいませんけど、富士でのラウンド2もラウンド5もレースラップはよかった。それまで苦手としていた富士でのパフォーマンスを改善するのか今年の目標のひとつでした。富士で負けていたセクター3もけっこう走れるクルマになってきていて、なおかつ気温も下がったので、有利になるのではないかと今回の富士に来る時点である程度の目論見はありました」

 レース1、レース2とも予選はダンプコンディション。セクター3で見ているとダンロップコーナーでのターンインがNSX勢は鋭く、その後の上りS字セクションでのトラクションの掛かり方もいい。トラクションについてはミッドシップで重量配分がリヤ寄りなのが奏功しているのは分かるが、ターンインについては、今季規定されたミッドシップハンデのウェイト搭載位置がむしろ恩恵になった面もあるという。フロントオーバーハング、スプリッター上面にウエイトを搭載していた。

 気温が下がったことによる恩恵は、エンジン吸気温度が低下してエンジンパワーが出せることと、空気密度が上がることでダウンフォースが増えることが挙げられる。弱点が解消され、武器が強みを増した。富士戦はラウンド2もラウンド5も気温が高い環境下のレース。富士で低温コンディションのイベントは現行規定では経験していない。コンディションが大きくNSXに味方した。

「それに予選がダンプコンディションであったのことが有利に働きました。決勝ではペースが変わらず逃げることはできなかった」

 たしかにグリップの薄いウエットだからこそトラクションの差は大きくタイムに反映されるが、ドライではその差は小さくなる。もしかするとグリップ力に限りのあるコントロールタイヤであったことも予選ではNSXを助ける方向に働いたのかもしれない。

 さらに予選一発の速さという意味ではフレッシュエンジンの恩恵もあるという。

「年間2基の規定によって最終戦のレースでエンジンを使い切っていましたので、今回用に新しいフレッシュエンジンを積んで、1レースで使い切るくらい点火時期もどんどん攻めていいよと指示していました。他社がどのような対応をしたのか分かりませんが、それも効いたかもしれません」

 ブースト圧もラムダも最大値ぎりぎりを狙うリーンブーストの勝負のなかで、ノッキングさせながら使うのが今のGT500のエンジン競争。点火時期を攻めれば、それだけエンジンライフが縮まる。開発自体は2020年シーズンに向けて完全移行して仕様変更はないものの、結果的に“富士スペシャル”となった3基目が爆発力を発揮した。

「ミッドシップ最後のレースを気持ちよく終わることができました」

 来季はエンジンを前に積んでインタークーラーも前に積むことで吸気温度の問題が解消されるものの、メリットばかりでないという。

「これまでミッドシップで、いかに我々がラクをしてきたかを身を持って実感しています。吸気のレイアウトにしても排気のレイアウトにしても、ミッドシップの場合、フォーミュラのように自由度があってパワーを出すことができる。FRだと狭いエンジンルームに収めながら同じパワーを出さなければいけないので、かなり厳しいところからのスタートだと思います」

 クラス1+αではサスペンションが共通化され、空力の開発領域も制限が厳しくなる。これまで以上にエンジン競争にスポットが当たる状況が考えられる。3社同一条件でどのような戦力分布になるのか今後のテスト動向に注目したい。



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