歓喜にむせぶWAKO’S 4CR LC500のすぐ隣でマシンから降りてきた平川亮は、そっとヘルメットのバイザーを閉めた。その内側では、言葉にならない悔しさがあふれていた。
元来、ツインリンクもてぎと平川の相性はいい。過去にはポールポジションも獲得しているし、予選でも決勝でも安定して上位に食い込んでいる。今季はスーパーフォーミュラでも勝った。
この週末も平川の担当したQ1は2番手通過、4番グリッドからスタートした決勝では優勝と、タイトルは逃したもののほぼベストと言える戦いぶりを見せた。だがその内情を見てみると、WAKO’S LC500とは対照的に、KeePer TOM’S LC500のレースウイークは始めから“ドタバタ”だった。
2019年、キーパーはニック・キャシディのアイデアを取り入れ、マシンをセットアップしてきた。キャシディが好むのは、よく曲がるクルマ。一方の平川はブレーキング~ターンインでのリヤのスタビリティを重視するタイプだ。
ここ2レースはキャシディが公式練習でのセットアップを担当してきたが、今回は得意のもてぎということもあり平川がセッション開始からマシンメイクを担当。
持ち込みのセットアップは、ここ数戦の流れをくんだ「ニックにちょっと寄せた形のもの」(小枝正樹エンジニア)。それを平川に乗ってもらい、“もてぎ仕様”に合わせ込んでいくという流れをイメージしていた。
だが、走り始めてみるとどうにもターンインでリヤが軽い。ブレーキングで突っ込むことができない。ピットインとセット変更が繰り返されていく。
「どっちつかずになってしまったというか……。亮のコメントを聞いて悪いところに対処していったのですが、それが裏目、裏目に出てしまい、ニックに引き継いでも修正しきれませんでした」(小枝エンジニア)。
公式練習の結果は2番手ながら、安心材料はまるでない。公式練習終盤のGT500占有走行ではキャシディがニュータイヤを履いたが、直後のサーキットサファリでも今度は平川が急きょニュータイヤを投入、セット変更の確認をするほどだった。
予選を終えても完全に修正はできておらず、平川もキャシディも小枝氏も、異口同音に「クルマはいまいち」と口にしていた。
決勝では「コールドタイヤには自信があった」というキャシディがオープニングラップで一閃、WAKO’S LC500をオーバーテイク。後半の平川も僚友au TOM’S LC500をパスしてトップに立ち、後続には12秒差をつける独走に持ち込んだが、“7点”をひっくり返すことはできなかった。
優勝会見でも失意の底にいたふたり。キャシディがそれでも「僕らが一番スピードのあるクルマだったと思う」とふり返ったのに対し、会見後の平川はそのクルマを「言い訳になってしまうけど、正直つらかった」と表現した。
「新しいことに挑戦するのは自然だし、勉強になりました。いろんな乗り方ができないとつねに速いドライバーにはなれない。いい経験だったと思います」
いいチャレンジはできた。だが、実らなかった。だから「去年の何倍も悔しい」し、その悔しさを平川は言葉にすることができない。
from スーパーGT:実らなかった“改革”。キャシディ主体のセットに変更も、合わせきれなかった平川の涙
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