スーパーGT:大嶋がつくり、山下が攻める。チームルマンが作り上げたセットアップ術の功績

 移籍して2019年シーズンからWAKO’S 4CR LC500のトラックエンジニアを担当した阿部和也エンジニアはレースウイークに初めてLC500をもてぎで走らせた。事前に実施されるタイヤテストには、各メーカー使用するタイヤ銘柄別に台数の制約があるからだ。

 テストに帯同してレクサス+ブリヂストンタイヤ代表38号車(ZENT CERUMO LC500)の情報を共有したものの「やっぱり自分でやらないと、感覚がつかみきれないですよね。かなり悩みました」。タイム差が少ないうえに、予選上位グリッド獲得が必須のもてぎにおいてこれは大きなハンデだ。

「正直、大嶋(和也。阿部エンジニアがスーパーフォーミュラ(SF)でも担当)には悪いけど、前の週のSFではGTのことで頭がいっぱいでした」。

 SF前に決めたセットアップをもてぎに向けた車両積み込みの直前に最終調整。そうして決めた持ち込みセットはぴたりと決まった。

「もらった(38号車の)データから、ウチのクルマに合うように持ち込みセットを考えました。走り出してみたらほぼ僕が思っていたターゲットどおりに、車高なりダウンフォースなり、メカニカル(グリップ)の使い方が再現できていて、ほぼクルマを触らずに予選までいけたというのがよかったです」

 さらにそこから土曜午前の練習走行の状況でQ1突破に対しては余裕があると予測し、細かい部分ではあるが3つほどのセット変更をQ1でトライした。

「大嶋にこれダメ。これはOKと評価してもらって修正。Q2で(山下)健太があそこまでいってくれました」。持ち込みセットがよければそこから触らないのがセオリーだろう。しかしさらに少しでも上を目指してトライする姿勢がタイトルを引き寄せる予選2位に結実した。

 そもそもQ1直前にセット変更すること自体、ドライバーを信頼していなければなかなかできないことだ。大嶋がクルマをつくり、山下が攻める。ポール・トゥ・ウインを決めた第4戦タイで確立したスタイルがここでも活きた。

 このタイでの優勝がタイトル争いをリードする起点だった。しかし、この時点ではまだセットアップの課題に対して必ずしも満足していなかったという。

「これまでも予選では前にいくけども、結局レースだと負けてしまうとか、抜き切れないとか、そういう問題があってタイトルを逃していた。そこらへんをドライバーからも脇阪(寿一)監督からもなんとかしてほしいと言われていた」

「だけど冬のテストって意外と走ってしまうものなんですよ。路面もいいし、ダウンフォースも出て、意外とごまかせてしまうんです。シーズンを迎えてみると、やっぱり弱い、これはまずいと感じていました」

 タイに続く第5戦富士では決勝での弱さにフォーカスして土曜午前の練習走行をロングの確認にあてた。この結果を受けて夜に一度工場に戻り、必要なサイズのパッカーを自作。翌日のウォームアップでそれを大嶋が確認した。

「あのときは必死でしたね。結果としてクルマの仕上がりの点で富士はベストレースだったと思っています。セーフティカー(SC)のタイミングもありましたけど、その時点で3番手に上がっていたし、前の36号車もつっついていてSCがなくても勝てていたかもしれない。タレも少なく思いどおりに走ってくれました」

 連勝をもたらしたこのセットが後半戦のベースとなった。

 大嶋のクルマを感じる能力がここでも活きて、短いウォームアップの時間帯に良否を判定することができた。

「健太もできないわけではないですが、大嶋は抜きん出ています」。ドライバーがクルマから感じたフィーリングをどのように言語化してエンジニアに伝えるのか、そこには相性もあると阿部エンジニアは語る。

「ニュアンスですよね。ドライバーが伝えていても、こっちがそれを感じ取れないとダメなんです」。大嶋と阿部エンジニアは今季初めて組む。どのように表現したら、どの程度の症状なのか、その“スケール”を作る作業から今季は始まった。

「セパンテストではそれを探りました。彼の言うオーバー(ステア)がどのくらいで、どれくらいがふたりの許容範囲か。それに巡り合わせもあると思います。寿一さんとは以前一緒にやっていたし(寿一監督現役当時チームルマンでメカニックを担当)、僕がうまくチームに溶け込めるように道をつくってくれた」

 チームがうまく機能すれば想像を超える大きな力を発揮する。その好例が今年のチームルマンだったと言える。

 最後に阿部エンジニアが目指した決勝に強いクルマの条件を聞いた。

「レースで大事なのはブレーキング時のスタビリティです。抜くには(相手のインに)ノーズを突っ込まなければいけない。ブレーキングでフラフラしていたら抜くことができないので、バトルに強いクルマにするためには、そこがまず課題です」

「そこから先のクリップでのアンダーは直し切れなかったかな……。とにかくリヤのスタビリティとトラクションの確保は心がけてずっとやっていました」

 まさにその磨いてきた武器が最終戦、終盤の最重要局面で充分に活きた。



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