「この状態なら、遅くても仕方ないか」。10月にホッケンハイムで行なわれたDTM最終戦、ドライでの走行を終えた平川亮のタイヤ表面を見て、トムスの東條力エンジニアはそう思った。そこにあったのは「スライド痕」。タイヤ競争のあるGT500でもし同じ状況になったなら、一発で「使えないスペック」の烙印を捺されるようなタイヤである。
だが、ふと気になってタイヤガレージを訪れDTM各車が履いていたタイヤを観察すると、そこには“もっと酷い表面”のタイヤばかりが並んでいた。DTM勢はそのタイヤで、日本勢より速いペースを刻んでいる。東條氏はショックを受けると同時に、ハンコックタイヤの使い方を悟った。
そもそもトムスはドイツでKeePer TOM’S LC500を走らせるにあたり、小枝正樹エンジニアと担当データエンジニアだけでなく、au TOM’S LC500担当の東條氏、さらにパフォーマンスエンジニアまでもが同行。同時期にはもてぎで最終戦向けテストも行なわれていたが、この未知なるレースをチーム一丸となって習熟することに努めていた。
その結果、富士では「僕らはもう分かっているから、普段のセットアップを気にする必要はない」(東條氏)と、auは極端にソフトな足まわり、キーパーはそれと通常GT500仕様との中間あたりのセットで走行を開始する。
富士の路面に対しては「結構、日本寄りでもいける」(関口雄飛)と、auの足まわりは周囲とは逆に硬くなる方向でアジャストされていく。タイヤはやはりスライドしていたが、そこへの対策を盛り込んだセットアップも機能していた。KeePerについては、目まぐるしく変化した週末のコンディションにも大きくセットをいじることはなかったという。
充実の体制で挑んだ前哨戦ホッケンハイムで得た知見を充分に活かし、他チームがあたふたとするなか、トムスは地に足をつけて短期決戦を戦った。普段と同じシャシーながら異なるタイヤで海外勢と対決するという側面について「マカオGPに近いと感じた」とKeePer山田淳監督は言う。東條氏も今回のようなチャレンジは「楽しい」と破顔一笑。異なる環境への準備と適応という面で、マカオなどの経験も豊富なトムスの底力を感じる一戦だった。
ニック・キャシディにとっても、レース1は最高のリベンジの舞台となった。ホッケンハイムでは雨のなか、序盤でクラッシュ。「あのあと、僕の能力に疑問を持っている人々がいることにフラストレーションがあった。でも今週はレイン、ダンプ、ドライと、どんなコンディションでも自分の強さを見せることができたから、彼らも見方を変えてくれるだろう」と笑顔。
スリックでの決勝でカギとなるロングランでのタイヤ内圧への対応も、「90〜95%で走るようにした。周りは早めにピットに入っていたけど、(後半を考え)ピットインを伸ばしたかった」と完璧にマネージメント。ドライバーもまた、敵地で涙を呑んだ経験をバネに地元・富士を戦った。
惜しむらくはレース1で予選2番手だったロイック・デュバルがスタートできなかったこと。かつてトムスにも所属したデュバルと、現エース的存在であるキャシディは、どんなバトルを繰り広げてくれただろうか。
from DTMホッケンハイムの“ショック”からの逆襲。マカオGPなどの知見を活かしたトムス勢の好パフォーマンス
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