衝撃シーン連続のスプリントバトル。ドライバーの理性を狂わせた魔性のインディ・スタート《特別交流戦レース2あと読み》

 まだまだ衝撃の展開の余韻が残るスーパーGT×DTM特別交流戦のレース2。日本勢とドイツ勢の手に汗握るバトルだけでなく、ホンダ陣営内3台の同士討ちに、レクサス陣営がなんと5台が絡んで接触するという類を見ないマルチクラッシュ、そしてニッサン陣営内でも映像にはなかったがGT-R同士で激しい接触がありMOTUL AUTECH GT-Rがはじき出されるなど、普段のスーパーGTのシリーズ戦では見ることのできない同時多発シーンの連続となり、もはや敵味方関係ない日独合わせた世界最高のハコ車によるドライバーズレースとなった。

 レース展開を見ても、順位の入れ替わりが目まぐるしく、タイムシートで大幅に上がる、下がるの連続で各車のポジションが把握しにくい、まさに短時間のスプリントバトルとなった。

 7周目にタイヤバーストで4番手から22番手の最後尾まで順位を下げたアウディ・スポーツRS5 DTMのロイック・デュバルが3最後に位表彰台に上がり、同じくタイヤのスローパンクチャーで緊急ピットインした影響で25周目には22番手の最後尾まで順位を下げたRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴が翌周で9番手と13ポジションアップして最後は7位フィニッシュするなど、アクシデントやトラブル、そしてバトルがほぼ全周全域で勃発。DTMフォーマットの魅力が富士スピードウェイでスーパーGTと融合した狙いどおりのレースとなったが、そのキーポイントとなったのは、3度のインディ・スタート/リスタートだった。

 今回の特別交流戦で導入されたDTMでも採用されているインディ・スタートは、ストレートの一定区間を80km/hで低速しつづけ、前後左右のマシンが限りなく接近し、グリーンシグナルとともに制限が解除されてレースがスタート(セーフティカー明けはリスタート)となる。

 DTM勢はこのインディ・スタートが通常ではあるが、ローリングスタートを採用しているスーパーGT勢は不慣れだ。もともと接触を好まないチーム/メーカーが日本勢には多く、ドライバーもお互いがどこまで接近すればセーフティなのかか探りながらになり、もともと80km/hの1速での低速走行を想定したエンジンではないため、マシンの挙動はどうしてもギクシャクしてしまってドライバーのマシンコントロールも簡単ではない状況ではあった。

 それでも、マシンが接近してワンパックになって低速走行するインディ・スタートは非日常感に溢れ、これから始まるレーススタートの緊張感と迫力は見た者ならば瞬時に理解できたはずだ。固まったワンパックがレーススタートと同時に22台のマシンが一気にコース幅いっぱいに広がり、全車がまさに生き物のように突然動き出す姿は、低音のエンジンが突然音圧を上げるサウンドと相まって、未体験のインパクトを与えた。

 このインディ・スタートはレース中にセーフティカーが導入された後のリスタートでも導入され、日曜日のレース2ではスタート、そして2度のセーフティカーアウト後の3度行われ、その3度とも大きな順位変動のきっかけとなった。そのなかでも特にDTM勢はこのインディ・リスタートを利用して順位をうまくアップさせたシーンが目立った。

 日曜のレース2後、ドライバーたちにこのインディ・スタート/リスタートと、異様なテンションとなったレース展開について聞いた。

「インディスタートでは毎回成功しましたね。たまたまですけど行き場が見えて、周りのみんなが動いたところで、そこで空いたスペースに飛び込んで行けました。タイミングとポジションというのがあると思いますけど、うまくできたかなと思います」と話すのは、8号車ARTA NSX-GTの野尻智紀。

 野尻は予選12番グリッドから5番手まで順位を上げ、一時ホンダNSXトップ5独占の一角を担ったが26周目の3度目のインディ・スタート後のコカコーラ・コーナー立ち上がりで16号車Modulo Epson NSX-GT、17号車KEIHIN NSX-GTのホンダ陣営3台の接触でリタイヤを喫してしまった。ホンダ勢の同士討ちという悔しい結果となったが、今回のDTMとのレースには好意的な言葉を残す。

「DTMとの交流戦は新鮮な面が多かったですね。台数も22台と多いので楽しいですよね。いつもと違うワンメイクのタイヤを『どうしよう』『ああしよう』といつもと大幅に異なるセットアップを試したり、そのあたりのトライを含めて楽しむことができたと思います」と野尻。

 37号車KeePer TOM’S LC500の平川亮も、レクサス予選最上位の9番手から8位フィニッシュで前日優勝したチームメイト、ニック・キャシディの結果に比べてしまうと素直に喜ぶことはできないが、レースは楽しめたようだ。KeePer平川はレクサス陣営6台のうち、5台が同時に絡む前代未聞のマルチクラッシュを唯一、避けることができた1台となった。

「たしかにレース後半は楽しめましたね。いろいろなバトルを一番いい場所で観客視点で見ている感じでした(苦笑)。目の前でいろいろなことが起きて、コカコーラ・コーナーの先で8号車と17号車が絡んでいなくなって、その周のダンロップコーナー立ち上がりで39号車(DENSO KOBELCO SARD LC500)がスピードバンプに乗り上げてウイリーして他のレクサスとぶつかって、最終コーナーでは(アレッサンドロ)ザナルディのBMWに12号車(カルソニック IMPUL GT-R)が激しく追突してボンネットが曲がって、そのままストレートを走っていたので危ないと思いましたね(その後、カルソニックは1コーナーでストップ)」

「最後は残り時間が少なくなってからのインディ・スタートになって、みんなのテンションが上がったというのもあります。レースには雰囲気というのがあるじゃないですか。やはり、誰かがやり出したらみんなもやり出す、そういう感じがありましたね。最後は結構、みんなアグレッシブで、やられたらやり返す、みたいな雰囲気がありましたね」と平川。

■「みんな、どんどんヒートアップして血の気が多くなっていった」 スプリントバトルの魅力が凝縮されたスーパーGT×ドイツDTMとの特別交流戦

 ホンダ、レクサスに続いてニッサン陣営としては、この特別交流戦ではホッケンハイムに続いて厳しい戦いとなったが、それでもMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生は11位フィニッシュながらレース全体については好意的に捉えている。

「レースは面白かったですけど、ちょっとサバイバル過ぎましたね。特にインディ・リスタートはみんなサバイバル過ぎて、1回目はそうでもなかったけど、2回目、3回目とみんなどんどんヒートアップしていった。みんな血の気が多くなっていたけど、僕は敢えて引いていました」

「スプリントバトルで最初はみんなお互い当てないようにしていながら、どんどんヒートアップしてきていましたね。インディ・リスタートで接近していることで、みんなヒートアップしちゃった。何度もインディリスタートをしているとドライバーもどんどん慣れて距離が詰まってきて(心の)スイッチが入る。僕もスイッチが入りながらも、そこは一歩冷静に引いていました。前も後ろも『このクルマ止まれるのか!?』というシーンが何度があって、そのままぶつけられたりもしました(苦笑)。僕は避けていたんですけどね……」

 次生はちょうど、13コーナーでのレクサス陣営の同士討ちの後方で目撃することになった。

「13コーナーでのレクサス勢は、このままだと絶対に当たるだろうなと思っていたら、やっぱり当たっていました。僕が見た時は19号車(WedsSport ADVAN LC500)と6号車(WAKO’S 4CR LC500)が絡んで回っていて、僕はその隙をかすめてうまく前に行くことができました」

 同じくニッサン陣営の中で、接触を受けて止まってしまい、18番手に終わった3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの平手晃平にも今回のレースの印象を聞いた。

「結局、残り時間が少なくなってみんなニュータイヤに履き替えたりしているタイミングでの(3回目の)インディ・リスタートで、みんな目の色が変わっていた。最初の平和なインディ・スタートから、最後のインディ・リスタートは雰囲気が違っていましたね。もうみんなが1コーナーに向けてゴリゴリゴリと前に進む、みたいな。『このドライバー、さっきまでそんなんじゃなかったよね!?』みたいな。インディ・リスタートも何度か繰り返すうちに精度が上がって、みんなやる気満々のスイッチが入ってしまった」

 レクサス陣営の同士討ちを招くきっかけの1台となってしまい、40秒加算のペナルティを受けて16位に終わったWedsSportの国本雄資も、インディ・スタートでは貴重な体験をすることができた。

「インディ・スタートは楽しかったです。最初のスタートでは行き場がなくて何もできなかったですけど、2回目は4台くらい抜くことができた。3回目は両側から挟まれて、右に左にぶつかるすごい状況になってしまった(苦笑)。でも、ガチャガチャがチャと前も後ろもぶつかりましたが、以外と密集しすぎてぶつかっているので誰もスピンしないんだなと。クルマのパーツは壊れてしまいましたけど、ドライバーとしては楽しかったですね」

 その3度のインディ・スタートを経て、結局DTM勢はリタイアはゼロで、参戦した7台のうち6台がトップ10入り。ザナルディも13位でフィニッシュし、サバイバル戦での強さを証明する形となった。ARTA野尻が今回戦ったDTMドライバーの特徴を話す。

「DTMドライバーについては、インディ・スタートでそこまでガツガツしていない分、どこまで行ったらクラッシュしてしまうのか、バトルでもマシンのタイヤの限界点をすごくわきまえている感じがあった。結局、今回のレースで止まっている車両は日本勢ばかりですよね。インディスタートも向こうは慣れているというのもありますけど、接近したときのギリギリの見極めがうまいのかなと思います。そのあたりはダウンフォースの大きい日本のクルマで接触はしずらいですし、レーススタイルの違いでもあると思いますね」と野尻。ダウンフォース重視のスーパーGTとメカニカルグリップ重視とも言えるDTMのマシンの違いからくる戦い方の視点は興味深い。

 とはいえ、クルマの特性は違えどもレース終盤、インディ・スタートによって目の前に獲物が接近すれば、その獲物を狩りに行きたくなるのはレーシングドライバーの本能。国籍関係なく、スーパーGTドライバーたちもインディ・リスタートの非日常的な距離感と、儀式的とも言える超低速走行からの急加速によって、いつも以上に攻撃的マインドが増幅され、グリーンシグナルとともに本能が全開放されることになったとも言える。
 
 今回の特別戦によって、コンペティションタイヤのパフォーマンスの高さ、そしてGT300マシンとの混走の素晴らしさなど、改めて普段のスーパーGTのシリーズ戦の魅力を再確認するとともに、今回のDTMフォーマットベースのスプリントバトルは、通常のスーパーGTのシリーズ戦では見ることのできない景色を体感することができた。

 運営資金やロジスティックス、細かいレギュレーションの折り合わせなど難題は多かったが、今回のレースを見て、もう一度見てみたいと思うのは素直なファンの心。毎年が難しいならば、2年に一度でも構わない。今回成し遂げたゼロからの1歩目のDTMとの特別交流戦。次の2歩目の開催が早くも待ち遠しい。



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