史上初となる、DTM第9戦ホッケンハイムのシリーズ戦に参戦するスーパーGT500クラスのマシン。初めてのサーキットに経験のほとんどないタイヤの習熟。チームはどのようにメニューを進め、そして対応していくのか。日本を代表するレースエンジニアのひとりでもあるLEXUS TEAM TOM’Sの東條力エンジニアが現場からお伝えします。2回目はいよいよ予選、決勝を1デイで行うレース1の土曜日。LEXUS TEAM TOM’Sはどのように戦ったのでしょうか。
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土曜日レース1,QFの直前まで雨でしたが、予選が始まるころには薄日が差し込んできました。予選開始時の路面は完全なウェット。気温は14℃、路面の水温は13℃。
今日は平川亮がドライブして、20分間の予選⇒レースを戦いました。平川選手にとって、ハンコックのレインタイヤはこれが初トライとなることから、安全策をとって20分間で1セットのウェットタイヤを使用し、習熟からアタックまでを行う計画を建てました。
ウェット状態から徐々に水がひき始めましたが、予選終了までウェット路面に変わりはありませんでした。上位勢のほとんどがアウトラップから全力でアタックを2〜3ラップ行い、途中で2セット目のウェットタイヤへ交換して、さらにタイムアップを目指す正攻法の戦略。
ポールポジションはアウディのレネ・ラスト選手でタイムは1分45秒552, 次いでBMWのウィットマン選手が1分45秒679と続きました。NSXのジェンソン・バトン選手は、セッション中間でタイヤを替えずにタイヤプレッシャーを下げる調整(想像です)を行いベストタイムを更新。1分46秒206と6番手を確保しています。
LEXUS平川選手は計画通り慎重に進めて1分49秒181で20位、GT-Rの松田次生選手が1分49秒349と続きました。
決勝はドライで行われました。気温15℃、路面温度は16℃。平川選手は最後列スタートということや、一昨日のドライでのロングランの感触が良かったことから、1周目にピットイン義務を果して空いているところでタイムを稼ぎ、セーフティカー(SC)出動を期待する順位挽回戦略でレースに臨みました。
序盤を計画通りに進めると、期待した通り18ラップ目にSCの出動があり、2セット目のタイヤへ交換して、再びコースへ送り出しました。このSCタイミング以前には、ほとんどのチームがピットイン義務を済ませていたことから、大幅なジャンプアップは叶いませんでしたが、フレッシュタイヤを得たことで徐々にポジションを上げ、15位で38周のレースを終えることができました。
いよいよレース1。タイヤの内圧が厳しく指定されているDTMではセットアップでどのように対応するのかが課題に
平川選手にとって、初めてのウェット走行が予選であったため、あえてリスクを回避することとしました。レース中のベストラップは10位。ラップアベレージでも10位あたりとDTM勢と遜色なく、レース後半ではハンコックタイヤのマネジメントを学習できたことは、富士の交流戦へ向けて大きな成果でした。
なにより接触やクラッシュがなく、レースを戦い切ったことに感謝します。バトン選手はスーパーGT勢最高位の9位、松田選手はトラブル対応で18位完走となりました。
一方、レースの主役はアウディのレスト選手と、BMWのウィットマン選手。終盤まで大バトルを展開して、レスト選手が優勝しました。ともにチャンピオン同士の戦いは、フェアで見ごたえのあるものでした。
そして、彼らのレースストラテジーはオーソドックスな1ストップでした。レースタイムを比較すると、彼らはタイムの落ち込みがとても少ないことが分かりました。ハンコックタイヤの使い方に大きな差があるはずです。
心配していたレース中のタイヤのハイプレッシャーは想定通りでしたが、フロントタイヤの摩耗とリヤタイヤの摩耗バランスを見る限り、もっともっとグリップを引き出す努力が必要です。明日に向けて大きな課題が見つかりました。効果的な解決策を考えなければなりません。
明日も、予選⇒決勝のフォーマット。トムスはニック・キャシディがドライブします。応援よろしくお願いします。
追記:DTMのスポーティングレギュレーションが複雑すぎて、参っています。タイヤの抽選〜マーキングや保管方法から始まり、予選中のパルクフェルメと予選後のパルクフェルメ、作業が許される項目や作業できる人数等々、まるで引っかけ問題のような細かな規則で縛っておきながら、結構、あいまいな決まりごとも多く存在していて、この規則に慣れるまで多くの練習期間が必要です。
参加されているみなさんが本当に理解しているのか疑問です。トムスのピット専属の監視員さんは、優しくて物腰の柔らかなおじさんだったのですが、規則書に書いてあることと度々相違があって、何度かレースディレクターの方へ確認することがありました。こういうのを体験すると、スーパーGTの規則書は何と良くできているのだと感心してしまいます。
富士の交流戦の時には、どのように規則を統一するのがスムーズなのか、GTAを含めて今から準備しておく必要がありそうです。
from 【トムス東條エンジニア特別寄稿】把握できたDTMトップとの差、グリップを引き出す努力が必要《DTM×スーパーGTインサイド2》
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