【2020年スーパーGT GT500新車分析:GRスープラ】ライバルも驚く簡素な“象足”が意味するもの

「このまま本当に走るのかな」

 テスト前日の発表会で初めてGRスープラの姿を見たライバル・メーカーのエンジニアがつぶやいた。驚きの対象になっているのは車両のサイド部分、ラテラルダクト出口付近の“エレファントフット”と呼ばれるエリアのことである。

GRスープラのサイド部分。ラテラルダクトはまだあっさりとした印象。
GRスープラのサイド部分。ラテラルダクトはまだあっさりとした印象。

 GRスープラにはフェンスがあるだけで、それ以外大きな空力付加物が皆無なのだ。展示はこの状態で済ませて、テストではパーツが追加されるとも予想されたが、走り出したGRスープラには屋根に空気流を計測するピトー管が追加されただけで、エアロパーツの追加はなかった。

 車両前方下面から側面に空気を流すラテラルダクトは、ダウンフォースを生む重要なエリア。クラス1ではエレファントフットの空力部品は統一されたものの、GT500に適用されるクラス1+αでは、開発可能となっている。

 クラス1が導入され、下面もすべて共通パーツとして統一されたことで、ダウンフォース獲得のためにはこれまで以上にエレファントフットが重要度を増している。

 しかも、これまでフロントスプリッターに装着が認められていたストレーキ(整流フィン)も禁止された。これまではこの効果でフロントのダウンフォースをかなり稼いでいたようで、クラス1規定で全体にダウンフォース量が抑制されたなかでも、特にフロント側の削減量が多いようなのだ。

 そうであるならば、許されている範囲で空力開発を進めて失ったダウンフォースを取り戻して、しかもできるだけ空力中心を前寄りしたいと考えるのが常道であろう。

 もちろん、今回機能チェックを優先してそのあたりのアイテムはまだ入れない選択をしただけの可能性もあるが、違うアプローチを試している可能性もある。ダウンフォース獲得よりも空力効率を優先する選択を検討しているのではないか?

 そのメリットとしてまず考えられるのが、21年以降(20年はオリンピック開催のため1戦)は2戦開催されることが濃厚な富士における優位性構築。1.5kmのストレートでのスピードでライバルを上回ることができれば非常に有利に戦うことができ、シリーズ中2戦に優位性を持つことで選手権も優位に運ぶことが可能になる。

 もうひとつは、タイヤ開発の方向性転換である。ダウンフォースの最大値が低いのであれば、タイヤへの負荷は確実に減る。荷重の変動量も少なくなり、それを活かしたタイヤ開発を進めてグリップアップを狙うという考え方もあるかもしれない。耐荷重性での要求値が軽減されるのであれば、その余裕をグリップに振り向けることは可能だろう。

 現レクサス陣営の6台の内、5台が同じブリヂストンを履くことも、こうした大きな方向転換に有利に働く。情報を共有することでセットアップも早く進む。

 テスト初日午前中にステアリングを握った立川祐路は「これまでと違うフィーリング」とGRスープラを評した。TRDの開発責任者である湯浅和基氏はそれに対して「気を使って表現してくれたんでしょうね」と笑う。見た目通りにダウンフォースが少なく、それに合わせたセットアップで走り出したのではないかと想像される。

 さらに興味深いのは、このテストの前に立川はドライビングシミュレーターで確認していたと言う。TRDの新ファクトリーに新たに導入されたようで、このGRスープラの開発から使い始めたようだ。これまでと開発の方向性の違いをまずはシミュレーターで確認して、そのドライビングでの活かし方を検討したのかもしれない。

 初日午前の走行では、各部チェックのために時間を使い、多少のトラブルもあり周回数は最小限であったが1分50秒832を記録。これは第3戦の決勝ファステストラップの約2秒落ちである、コースにラバーが載っておらず、おそらくタイヤもこの時点ではスタンダードなものと想像される。プログラミングが完璧でなくシフトもスムーズにできない状態で、とくにアタックしていたわけでもなく走ったラップタイムとしては速いと評価できるのではないだろうか。

 コースサイドでみている限りでは、挙動はスムーズでグリップの限界内で走っている印象だった。それからまだセットアップ途上だからなのか、共通ECUの変更が理由なのか、スロットルオフ時のアンチラグの音が聞こえなかった。

 今のプレーンな状態そのままで開幕前の空力パーツの登録を迎えることは考えづらいものの、ドラッグ低減優先で開発が進んだとしたら、新たなアプローチとして興味深い。

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 9月26日(木)発売のスーパーGTファイルVer.7ではクラス1とクラス1+αの開発を総力特集。2020年のスーパーGT GT500クラスを語る上で外せない内容が満載です。



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