スーパーGT500クラス予選《あと読み》驚く2メーカーと納得の1メーカー。2年間で入れ替わるパワーバランスと3メーカーの非情な戦い

 オフのテストからでは勢力図が読み取りづらかった今年のスーパーGT500クラス。ホンダNSX-GT、レクサスLC500、ニッサンGT-Rの3者のパワーバランスは、この開幕戦岡山の予選で意外な結果として表れることになった。フロントロウを独占したニッサン、その後に続くホンダ、そして低迷してしまったレクサス。それぞれのメーカーのキーパーソンにとっても、この予選は意外であったり、予想通りであったりと悲喜交々だったようだ。

 見事ポールを獲得したMOTUL AUTECH GT-Rの鈴木豊監督にとって、今回の予選結果は意外だったようだ。

「驚いています。正直、今回の予選で、ポールポジションを獲れるとは思っていませんでしたので(苦笑)」と、鈴木監督。

「朝の時点では他メーカーがもっと来ると思っていましたし、ウチもあんなタイム(1分16秒602)を出せるとは思っていませんでした。ただ、予選Q1で(松田)次生のタイム(1分17秒165)を見たときに、ある程度はいけるのかなと思いました。次生はアタックの時に前のマシンに引っかかってしまってコンマ2~3秒はロスしていましたから、1分16秒台には入れるとは思っていました。ただ、それまでは全然、ポールなんて考えていませんでした」

 MOTUL GT-Rとホンダのトップ、3番手のRAYBRIG NSX-GTとのセクタータイムを比較すると、両者の約コンマ3秒のギャップはほとんどセクター2の差になっている。セクター2はバックストレートがある区間であり、このバックストレートでMOTUL GT-Rはタイムを稼いでいると言える。

「結構、ウイングを寝かせていますからね。クルマの開発としては大きく伸びている訳ではないと思っていますが、トータルで良くなっているのだと思います。ただ、ウチが速いというよりも、トヨタさんが遅くなってしまったような印象なので、トヨタさんが普通に走っていればどうなっていたか。去年を見ても、もっと速いイメージがあります。ちょっと今回、何かを外しただけなのかもしれません。ホンダさんは今の段階では、まだよく分かりません」と、3メーカーのマシンについて話す鈴木監督。周囲からはエンジン面でのパフォーマンスアップが囁かれているが、そこは明言はしなかった。

 一方、ホンダのトップとなった予選3番手のRAYBRIG山本尚貴にとっても、今回の予選、そしてテストから開幕戦までの流れ自体が意外な展開だったという。

「岡山の合同テストから、なかなかうまく走れなくて、ホンダとしてライバルメーカーと比べてというよりも、1号車として全然うまくクルマが走らなくて、今回の開幕戦に向けてもかなり不安があって来たんですけど、今日の朝のセッションで走ったら、クルマが元に戻っていました。前回までの雰囲気からクルマがまるで変わって、良くなったという手応えがありました。それが何よりでしたね。不調の状態からここまで回復できたチームとホンダの努力の結果だと思います」

「予選の結果を見るとニッサンの2台に前に行かれてしまったので、決して喜ばしいことではないんですけど、これまでのテストの結果を踏まえると、この位置に戻ってこられたというのが何よりの収穫ですし、いい予選だったなと思います」と山本。

 山本から見た、ライバル2メーカーのパフォーマンスについてはどうか。

「ニッサン勢はこれまでのテストでずっと調子が良かったので、この結果は順当なのかなと思います。むしろ、そのすぐ後ろの3番手に付くことができたので、ホンダとしても決して悪い予選ではなかったと思います。それ以上に、レクサスがあんなに苦戦するとは思わなかったので、その方が驚きました。彼らが沈まなければ、僕らは3番手にはいられなかったと思います」と、山本は予選の結果を振り返る。

■劣勢を想定していたレクサス陣営、現代スーパーGT3メーカーバトルの厳しさ

 
 予選7番手がトップタイムとなってしまったレクサス陣営は、まさに大不振と言えるが、レクサス陣営内に話を聞くと、ほとんどのレクサス関係者にとって、今回の結果は想定されていたのだという。2年前からレクサスLC500の開発の現場エンジニアとして担当していたau TOM’S LC500の東條力エンジニアが話す。

「全然、予想通りの結果です。前回の岡山公式テストの時も初日の総合結果はウチ(関口)雄飛が2番手でしたが、トップの12号車(同じブリヂストンタイヤのカルソニック IMPUL GT-R)とは約1秒の差でしたので。今回もレクサスのトップと12号車は1秒くらいで同じなので、テストのときのそのままの差ですよね」と東條エンジニア。

 現行マシンの初年度となった2年間の開幕戦岡山では、決勝で6台のレクサスLC500がトップ6を独占。『春のレクサス祭り』と表現されるほど、レクサス陣営はこれ以上ない好結果を残していた。わずがこの2年で、その勢力図が逆になってしまったのだろうか。

「2年前のLC500はデビュー時から完成度が高かった。その反面、その後の伸びしろが少なくなってしまったのかもしれないけど、この2年間はもう、開発を頑張ったか、頑張らなかったかの差でしょう」と東條エンジニア。

 他の多くのレクサスチーム関係者の声も同様で、レクサス陣営としてすでに白旗宣言とも受け取れるが、それこそ昨年後半のニッサン勢が、まさに今回のレクサスのような雰囲気でもあった。メーカーごとの勢力図、そしてチームごとの勢力は、わずかな違いがリザルトに大きな影響を及ぼしてしまうのかもしれない。山本尚貴のコメントが印象的だ。

「やはり今のGTは少しの変化でQ1で落ちてしまうし、上手く走れなかったりが起こる。現行のルールのなかでマシンを進化させるというのはなかなか簡単ではないと思いますし、今のGTでクルマを速く走らせる大きな要素はタイヤになります。予選で上位グリッドを獲得できてもレースで下がってしまっては意味がないですし、むしろレースでコンスタントに走れた方が最後はよい結果になる。明日の決勝もレースペースが重要になると思います」

 3メーカーのマシンの開発競争、そしてタイヤの開発とコンディションに合ったタイヤ選択、そのタイヤのパフォーマンスを引き出すセットアップ……いろいろ複雑な要素が絡むスーパーGTだが、しのぎを削る自動車メーカー3社の戦いの、まさにその厳しさを感じさせた今回のGT500の予選となった。



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