99戦目、フル参戦13年目にして初ポールの伊沢拓也。周到に組み立てられた計画と格別の感触【第3戦鈴鹿予選】

 トヨタに移籍した伊藤大輔に変わって、2008年にカーナンバー1のARTA NSXで鮮烈なGT500シーズンデビューを果たした伊沢拓也。現役のGT500ホンダ陣営のなかでは最多の7勝を挙げているベテラン伊沢だが、13年目となる今年の第3戦鈴鹿で見事、スーパーGTキャリア初のポールポジションを獲得した。その伊沢、今年に懸ける並々ならぬ想いがあった。

「チームを移籍して、今年に掛ける想いは強かった。中嶋さんのレースに対する想いだったり、チームスタッフ、ダンロップのみなさんが頑張っているところを見て、やっぱり予選でのスピードという形で表現したかった」

「こういう結果が出るとチームみんなの士気を上げることにもつながるし、僕自身もスーパーGTでポールポジションを獲ったことがなくて、こんなに長くレースをしている割にはそういったことができていなくて、自分自身にも見直すところがあった。そういういろいろな想いを含めて、今日はうまくいったなと思っています」と伊沢。

 Modulo NSX-GTと伊沢にとって、この第3戦鈴鹿は今シーズンの大きなターゲットになっていた。そして、今年GT500ルーキーとなるチームメイトの大津弘樹の配慮を含めて、この3戦目に向けての準備と仕込みは周到だった。伊沢が話す。

「シーズンを通してこの第3戦鈴鹿がチャンスだと思っていたので、第2戦富士では予選Q1、そしてスタートを大津(弘樹)選手に担当してもらいました。この鈴鹿で今回のような場面になった時に初めて経験するというのではなく、きちんと準備をして鈴鹿を迎えられるよう第2戦では大津選手に担当してもらいました」

「この鈴鹿に合わせてシーズンを進めてきたのが正直なところですので、その進め方が本当ならばよくはないのかもしれないけど、自分たちの持っているパッケージを考えると、この第3戦鈴鹿できちんと結果を出すというのが大事。その狙っていたことが狙ったとおりにできたというのは、ドライバーとチームとダンロップのみなさんの頑張りのおかげだと思います」と伊沢。

 着々と準備を進めながら、鈴鹿では臨機応変な対応も実を結ぶことになった。実際、当初はQ1は伊沢が担当する予定だったという。

「もともと、Q1は僕が担当する予定だったんですけど、練習走行があまりに調子が良くて、中嶋さんが急きょ、大津選手と僕を入れ替えたんです。ですので、ここまで調子がいいとは思っていなかったんです」と話す伊沢。

 そしてルーキーの大津が見事Q1をトップで通過。大津はポールポジション会見で「Q1へ行く前は伊沢選手からいろいろとアドバイスも貰って、それが活きたと」話したが、伊沢はどんなアドバイスをしたのか。

伊沢「いや、別に大したアドバイスはしていないですよ」

それを後ろで聞いていた大津が、すかさず突っ込む。

大津「勇気づけてくれましたよ!」

伊沢「『良くても悪くても、別にお前たちは天才じゃないんだから適当にやっておけ』って言いました」

大津「いやいや、そんな感じでは言ってないですよ(笑)」

 ベテラン伊沢とルーキー大津のコンビのよさが伺えるやりとりだったが、伊沢のハニカミ屋な性格がうかがえるひとコマだった。

 その伊沢、ルーキーの大津がトップタイムをマークしたQ1を受けて、Q2へはどんな心境で臨んだのか。

「Q2のアタックはドキドキしました。アタックラップもセクター2まで上手くいきすぎて、セクター3をセーフティに行きすぎた感はあるんですけど(苦笑)、自分のベストは尽くせたいいアタックだったと思います」と、珍しく自画自賛。

 99戦目、13年目で聞いたポールポジション獲得の瞬間も、ひとしおだったに違いない。

「アタックを終えたあと、まだ23号車(MOTUL AUTECH GT-R)のアタックが最後に残っていた。自分がトップタイムを出してとりあえずゆっくり走っていて、チームからは『ちょっと待って』という感じだったので、『あれ? これは結構ヤバイのかな』と思っていたので、ポールが決まったと聞いたときは正直、うれしいというより、ホッとしました」

 ベテランらしく、チームへの気遣い、そして新人のチームメイト、そしてなにより、ダンロップタイヤへの感謝を忘れなかった。

「今日の走り出しは信じられないくらい、他をぶっちぎっていたので、あとは午後のコンディションにきちんと合うのかと、ドライバーがミスをしないことと、惑わされない、浮き足立たないようにすることだけだと思っていました」

「大津選手にとってはプレッシャーがかかる場面だったと思いますが、1年目でこういったプレッシャーがかかる状況で彼自身、自分の能力を証明できたというのはすごく大きいことだと思うので、僕にとっても、彼にとっても、そしてチームにとっても、すごくいい機会になったと思います。そして何より、僕はダンロップが一番喜んでくれているんじゃないかなと思っていますので、みんなで力を合わせてここまで来れたのが本当にうれしいです」

 ここまでほぼ完璧とも言える組み立ててで、ぶっちぎりの結果で予選日を制した伊沢とModulo NSX-GT。果たして、決勝はこの予選日以上の喜びを得ることができるのか。否が応にも注目が集まるなか、日曜日のスタートを迎えることになる。

2020年スーパーGT第3戦鈴鹿 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹)
2020年スーパーGT第3戦鈴鹿 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹)
ポールポジションを獲得したModulo NSX-GT
ポールポジションを獲得したModulo NSX-GT


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