2020年のスーパーGTは、3月14〜15日の岡山公式テストが行われて以降新型コロナウイルス感染拡大の影響により、公式テストやレースが一切行われていない。6月に入り少しずつ社会が動き出しているなか、モータースポーツも開幕の気運が生まれつつあるが、スーパーGTで前人未踏の四度のチャンピオンを獲得しているNISMOのロニー・クインタレッリも、シーズン開幕を待ち遠しく過ごしているひとりだ。そんなクインタレッリに、この新型コロナウイルス禍の生活と2020年シーズンに向けた意気込みを聞いた。
2011〜2012年のGT500クラス連覇、そして2014〜2015年の連覇と、他に誰も成し遂げていないGT500クラス4回のチャンピオン。日本語を流暢に操り、ある意味日本人以上に日本人とも言えるイタリア人ドライバー、ロニー・クインタレッリ。ニッサン/ニスモのエースのひとりとして、2020年に向け新しいニッサンGT-RニスモGT500の開発を続けてきたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、3月の岡山公式テスト以降、レーシングカーに乗ることができない日々を過ごしている。
■モチベーションを保つためのコミュニケーション
とはいえ、3月以降クインタレッリは自宅で今までなかなか時間がとれなかった家族とのひとときを過ごすとともに、開幕に向けてトレーナーから課された厳しいトレーニングを積み、いつでもGT-Rのコクピットに戻れるように準備を整えている。「すごくハードなメニューをトレーナーが用意してくれていて、朝からこなしています」とクインタレッリはいう。
しかし、ゴールがないトレーニングほど厳しいものはない。5月までクインタレッリが家族と過ごす神奈川県内も緊急事態宣言が出されていた。また、母国イタリアも厳しいロックダウンが課され、両親もイタリアで不自由な暮らしを送っていた。岡山公式テストの際にも、心配そうにイタリアの父に電話をかけるクインタレッリの姿があった。こんな状況で、いつスーパーGTは開幕するのか……。クインタレッリは「やっぱりターゲットがないと気持ちを保つことが難しかった」と、モチベーションを上げる努力に苦慮することになった。
そんななか、クインタレッリにSUPER GT Official Youtube Channnelから声がかかった。この新型コロナウイルス禍のなかで、SUPER GT Official Youtube Channnelは過去の映像を掲載するとともに、2011年の映像を一戦ごとに週末プレミア公開し、一般ファンがチャットで楽しめるシステムを作った。そこには現役ドライバーもしばしば参加していたのだが、これに参加しないか……というものだった。
クインタレッリは2011年第3戦セパンから、しばしばチャットに参加。現役GT500ドライバーの参加にファンも大いに喜んだ。チャットでファンとコミュニケーションをとったり、クインタレッリにとっての代名詞(?)とも言える「アリエナイヨ!」というコメントを自ら投じて盛り上げてみたり。海外から参加するファンもいたが、英語でコミュニケーションもとった。
そしてこのYoutubeでのレース視聴は、クインタレッリにとっても大いにモチベーションを高めるきっかけになったという。2011年は、クインタレッリが初めてのチャンピオンを獲った年。また、2011年に続いて放映された2010年も、今のチームメイトである松田次生と初めて組んで1勝を挙げたシーズンだ。“いい時”の映像を観てモチベーションを高めるアスリートは他にも多い。
「その2年間の映像を観て、すごくモチベーションを高められました」
「この2ヶ月でずっとトレーニングをしなければいけなかったけれど、シーズンの開幕の目途もなかなか立たなかったし、そのなかですごくハードなメニューをこなすためには、やっぱりモチベーションが必要だった。こうして保つことができたのは良かったですね」
ちなみに、クインタレッリが視聴したなかで最も印象に残ったレースは2011年第4戦SUGOだ。「その年からGT500クラスに参戦したMOLAでの初めてのポールポジション、それに初優勝を飾ることができた。マー(柳田真孝)にとってもGT500初優勝ですからね。印象が強いです」
■『5回目のチャンピオン』への強い気持ち
まだ正式なカレンダーは発表されていないが、6月下旬には公式テストがスタートし、7月からはこれまでとはまったく違うシーズンがやってきそうだ。しかも2020年は新たなクラス1規定が導入され、3メーカーともにニューマシンで戦う未知なるシーズン。岡山公式テストまでの3メーカーの印象についてクインタレッリに聞くと、こんな答えが返ってきた。
「トヨタもホンダもかなりいい仕上がりだと思います」とクインタレッリ。
「僕たちは岡山公式テストまでは細かいトラブルもあったりしたので、その点ではまだ足りない部分があったと思います」
しかし、この新型コロナウイルス禍のなかでの3ヶ月ほどが、ニッサン/ニスモにとってプラスになっているのではないかとクインタレッリは期待する。
「何が悪いか分からないのがいちばん良くないですが、テストでどの点を改善すべきなのかは分かっていますし、そこから3ヶ月クルマを良くするための時間を作ることができた。僕たちにとっては逆にチャンスになるかもしれませんね」
また、クインタレッリとMOTUL AUTECH GT-Rにとっての武器でもあるミシュランも、比較的夏場が強い。「まだカレンダーは発表されていませんが、本来の開幕のころはまだ路面温度も気温も低かったですよね。でも、ある意味今年はいちばん得意な時季から始めることができると思いますので、期待は高いですよ」
思えばクインタレッリが柳田とともに初めてGT500チャンピオンを獲得した2011年も、東日本大震災の影響で変則的な開幕となり、また天候不順が影響し荒れたシーズンのなか、彼がもつ勝利への思いと熱い感情が強さに繋がったシーズンだった。2020年は過去最も“変則的”なシーズンとなりそうだが、クインタレッリはシーズンへ向け、『5回目のチャンピオン』への強い思いを口にした。
「2019年はいいときもありましたし、シーズン終盤にタイトル争いに残ることはできましたが、力不足だった点もありました。僕は2015年に4回目のチャンピオンを獲りましたが、そのときは5年で4回チャンピオンを獲っていたので、あと2〜3年で5回目が獲れると思っていました(笑)」とクインタレッリ。
「GT500ドライバーになってから、今がチャンピオンを獲っていない時間がいちばん長いです。毎日、5回目のチャンピオンを獲るために努力していますし、チャンピオンを獲るための強い気持ちがあります」
「今シーズンこそ、5年ぶりのチャンピオンをニッサン/ニスモにプレゼントしたいですね」
from スーパーGT:クインタレッリ「気持ちを保つことが難しかった」開幕へ奮い立たせた強い思い
コメント
コメントを投稿