4月13~14日に行われた2019年のスーパーGT第1戦岡山。天候に翻弄される結果となったレースで見えたNSX-GTにまつわるトピックスをご紹介。
■抜け出すのは困難か。BS装着NSXは実力伯仲。富士ではARTAとRAYBRIGに注目すべし?
開幕前夜、RAYBRIG NSX-GTの伊与木仁エンジニアは、1時間おきに目が覚めてまったく眠れなかったという。というのも、練りに練ったセットが決まるのかどうか心配で仕方がなかったからだ。
じつはオフの調子はそれだけ悪かった。岡山ではフロントがロックするし、曲がらない。富士ではコーナーによってリヤがロックしたりしなかったり。さらにバウンスもあった。原因は不明。
「以前のクルマが100としたら20くらい。土曜に走りはじめていけることが分かったとき、涙が出そうになった」
他のBS(ブリヂストン)装着のNSX2台は、似た症状は出ているもののRAYBRIG NSXほどではない。だがARTA NSX-GTは「テストのときよりもやりすぎて、扱いづらくなってしまったかも」(星学文エンジニア)と、予選は3台中最下位。とはいえ、仮にセットが決まっていたら「RAYBRIGくらいのタイムは出ていたと思う」と語る。
KEIHIN NSX-GTは新加入のベルトラン・バケットがQ1で、RAYBRIG NSXのジェンソン・バトンを上回る。ただしバトンは直前の公式練習では履いていないタイヤでのアタックだ。
Q2では今度は山本尚貴が塚越広大を約コンマ1秒上回る。だが山本はソフト、塚越はミディアムを選択。とはいえ、両スペックの間にタイム差はほとんどないという。
以上の点から、上記3台のポテンシャルはかなり近いと思われる。「今回のセットは悪あがきのようなものだから、もう一度検証する必要がある」と伊与木氏。次戦の富士は、オフの間はARTA NSXの調子がよかったが、結果はいかに。
■NSXフロント部に搭載されたウエイトの功罪
午前の公式練習ではライバル2車に対してNSX-GTは圧倒的に最終コーナーのボトムスピードが速く感じた。減速量が少ないにもかかわらず、アクセルオンのタイミングも早く、アンチラグの音もライバルより派手だ。一方、ほぼ全開で抜けるその手前の“キンク”、マイクナイトコーナーでは昨シーズン開幕戦で見られた路面のバンプでの跳ねが収まっており、安定性と速さの両方を手に入れたように見えた。
2018年開幕戦と比べると参加条件における車両最低重量は15kg重いが、それを跳ね除けて大幅な進化を遂げたことになる。
開幕戦の参加条件では「GTAが指定するバラストウエイトを指定位置に搭載しなければならない」と決められている。指定バラストウエイト重量やその位置については明文化されていないものの、フロントハブセンターより前、スプリッターのアップスイープ部にかなりの割合でウエイトを搭載していることをGTA会見で坂東正明代表が明らかにした。
スペースが足りないため比重が金同等に重いタングステン材の採用が特別に認められているという。ホイールベース外、前軸の前に重りがあればヨーモーメントが増大するのは必至であり、重量差をいたずらに拡大するのではなく特性差を埋めるという観点から妥当な措置と思える。
ここで思い出すのが昨季までのNSX-GTの状況。ミッドシップではあるが共通モノコックを採用するためにエンジン搭載位置は妥協の産物で、どうしてもリヤヘビーである。アンダーステア傾向があり、それをセットアップの前後バランスで曲がるようにすると急激にナーバスな特性を示すこともあった。18年は空力開発を加速することで、不足しがちなフロント荷重を補った。
そこに開幕戦の参加条件のウエイト搭載方法である。もしも指定ハンデウエイトがそのフロント荷重不足をちょうどうまく補っていたとしたら、参加条件は狙いと逆の効果を発揮したことになる。あるいは規定を逆手にとったホンダ開発陣を讃えるべきか。予選では上位独占……と想像したものの、結果はさにあらず。ニッサンがフロントロウを占拠した。
昨シーズンのNSX-GTは午前練習走行から午後の予選、とくにQ2に急激にタイムアップを果たしていた。そのイメージからすると上げ幅が相対的に小さい。コースサイドで見たイメージではGT-Rは午前より明らかにパワーアップしていると思ったが、NSXにはそれを感じなかった。コーナーの動きは午前と変わらないものの、迫力に欠ける……。
ちなみに最高速データでは公式練習ではNSXとGT-Rが同等。Q2ではGT-RがNSXをわずかに上回っていた。
ミッドシップのNSXには参加条件がつき、その数値は年間で固定されていない。昨季も途中で見直されたように、今季もその可能性は常にある。ここまで視野に入れたNSXの予選パワーだとしたら……スーパーGTはやっぱり深い。
ウエイトがフロントタイヤを助けた!?
ウエットレースとなった決勝ではさらにフロントのウエイトがタイヤのウォームアップ性能を助けているようにも見えた。
2017年第4戦SUGOではポールスタートのARTA NSX-GTに乗る野尻智紀がフロントタイヤの温まりの悪さに苦しみ順位を落とした。車載映像では初期の舵に対してまったく反応がなく、大きく舵を当てて曲がっている様子が映し出されていた。
もっともこの時、野尻を抜いたのもRAYBRIG NSX-GTの山本尚貴であり、NSXが一様にフロントタイヤのウォームアップ性能が悪いことの証明にはならないが、一般論としてフロント荷重が少ないことがウエットでタイヤウォームアップに不利なのは間違いなく、とくに低速走行で空力に頼ることができないSCラン中は静的荷重の違いが大きく影響するはずだ。
フロントエンドに20数kg(公表されていないため推測)のウエイトがあれば遠心力のマイナスがあったとしても、フロント荷重は確実に増える。元々フロント荷重の薄さが弱点であったことを加味すれば、これがタイヤのウォームアップを助けたと考えるのが妥当だろう。
実際SCランからのリスタートでNSX勢がGT-R勢を次々とパスした。とりわけ同じブリヂストンタイヤを履くカルソニック・インパルGT-Rとの比較で車両特性差は明確になった。
特殊条件で本来のデメリットがメリットとして目立っただけなのか、ロングランではむしろフロントタイヤへの負荷が増したことによってタイヤの消耗を促進するのか、グリーン下での周回数が10周の今回のレースでは明らかにならなかった。
14年の規定導入当初、技術的に検証を重ねて決めたミッドシップハンデ29kgを維持することを坂東代表は明言しているが、ウエイト搭載位置については見直す可能性があることを示唆している。中低速コーナー中心の岡山と、高速コーナー100Rがある第2戦富士での結果を見て、今後判断するという。
from スーパーGT:ブリヂストン装着のNSXは実力伯仲/GT500トピックス
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